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その日、“花梨”は、blossomの絶対的エースであるダリアの家に呼ばれていた。
結成当初からダリアは、人気と実力、誰もが振り返るほどの美貌と圧倒的なオーラを持ち、グループ内でも格上という暗黙のマウントが存在していた。
対して、五人の中では一番存在感が薄く、人気も今一つだった花梨は、ダリアから「花梨だけに相談したいことがある」と言われ、舞い上がっていた。
初めて招待されたダリアの家。
都心の一等地にある高層マンション。
はやる気持ちを抑えながら足を踏み入れた部屋で待ち構えていたのは、ダリアではなく、一人の男だった。
「やーっと来た!」
ニヤニヤとバカにしたような目で花梨を見下げているのは、今人気急上昇中の男性アイドルグループ、“イノセントボーイズ”の晴臣だ。
状況が理解できない花梨は、何度もダリアを呼びその姿を探した。
しかしどんなに呼び掛けても、彼女が現れることはなかった。
「花梨ちゃん、俺のこと好きなんだよね? ダリアから聞いたよ。……正直、ごめんだけど、あんまりタイプじゃないんだ。だけど一回くらいだったら、ヤッてあげられなくもない」
「はい……?」
どう返答していいか、花梨は考えあぐねた。
事務所から、“必要以上にしゃべるな”と言われていたので、自分の話し方というものを忘れてしまったせいもある。
「……結構です。誤解されている様ですが、私はあなたのことが好きではありません。ダリアに用があって来ただけです」
至極丁寧に話したつもりだった。
しかし相手の方は、みるみる表情を歪めていく。
「お前、俺のこと誰だかわかってんの?」
「あ……あれですよね。イノセントなんちゃらの」
「なんちゃらってなんだよ! バカにすんのもいい加減にしろ!」
次の瞬間、晴臣は勢いよく花梨を組みしいた。
「……離して下さい」
「嫌がる振りすんのやめろ。それとも、それがお前の誘い方?」
身動きがとれなくなった花梨を見下ろして、晴臣はいやらしい笑みを浮かべた。
「知ってんだよ。イイ男と付き合う為にアイドルやってんでしょ?」
「……………………」
その言葉に、“花与”の四年間の積もり積もった鬱憤の全てが解き放たれてしまった。
右足で思い切り晴臣の股間を蹴りあげると、立ち上がり叫んだ。
「ふざけんなよ! 誰がオメーみてえな奴の為にアイドルやるかっつの!」
「は…………?」
大人しいと思っていた花梨の暴言に唖然とする晴臣。
「地獄に堕ちろ」
ストレートの長い黒髪をかき上げ、彼に思い切り中指を立てると、花与は部屋を飛び出した。
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