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ひとつのシーンを終えた時、誰からともなく拍手喝采が沸き起こった。
その手応えにホッと胸を撫で下ろす花与。
自分が上手く演じられたとは思っていない。
だけど、真剣に向き合ってもらえた。
それがこの上なく嬉しく、最高の賛辞に思えた。
「やっぱりすげーな、西園寺さん」
「小泉さんのオーラも凄かった。さすが名女優」
スタッフ達の称賛に、西園寺と小泉の表情も晴れやかだった。
充足感の滲み出ている二人の顔を見て、ずっと傍観していた美咲役のシオンがきょとんと目を見開いている。
「花与ちんすごいじゃん! 演技上手くなってる!」
声をかけてきた共演者の芸人、猫美に、花与は苦笑してお茶を濁した。
とてもじゃないけど“素でした”なんて言えない。
「まあお嬢ちゃんにしては上出来なんじゃないか?」
「まぐれかもしれないけど」
西園寺と小泉の憎まれ口も、今ならすんなり受け止められる。
「ありがとうございます」
深々とお辞儀をし、頭を上げた瞬間、遠くの方で佇む月岡と目があった。
彼は感情を読み取れない表情で、花与のことをじっと見ていた。
……一番厄介なのは奴だ。
なんせ、ゆくゆくは彼と恋に落ちないといけないのだから。
先が思いやられて、花与はひとつため息をついた。
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