恋せよアイドル

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 その後の撮影も、概ね順調に進んだ。  西園寺と小泉との熾烈な舌戦は続き、先輩家政婦の猫美との家事のシーンでは、嫌々ながらもひた向きに働く愛子を、もちろん花与のまま挑み意外にも好評を得た。  しかし著しい変化が見られたのは、花与だけではなかった。  美咲役のシオンだ。  緊迫した花与達のシーンを見てから、何故か彼女の演技も変わった。  花与が傲慢な悪女になればなるほど、シオンはより天真爛漫に、可憐な乙女としての役割を果たした。  これではどちらがヒロインかわからない。  外見、演技共に清らかで美しいシオンに、みな心を奪われずにはいられなかった。  それこそがプロデューサーの狙いだった。  世間の嫌われ者である花与を悪女にすることで、その対極にいるシオンの魅力を余すことなく発揮させ、今年ブレイク女優として売り出す。  主役を食うほどの実力者として。  最初から、実質シオンが主役だったのだ。  そんなことは露ほども知らない二人。  今日は大学のキャンパスでのシーンだ。  父親の会社が倒産し、両親は愛子だけを残して夜逃げした。  つまりは捨てられたのだ。  大学の学費だけは前もって全納していたので、どうにか通うことができたが、周りの生徒には事情が全て筒抜けで、好奇な目に曝される愛子。  それを励まして寄り添うのが、美咲と祐介の役目だ。  
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