恋せよアイドル

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「アレか、炎上アイドル」 「本物オーラねえー」 「てか、ぶっさ」  好奇な目で見られるのは、“愛子”だけではなかった。  撮影の合間に漏れる大学生役エキストラ達の会話に、花与は黙って耳を傾ける。 「おい、話しかけてみろよ」 「えー! やだよー! 怖いもん。あの人性格マジ最悪でしょ」 「この役ぴったり」 「それに比べてシオンちゃん天使やん」 「メグタンとシオンの普通のドラマが良かった」  これが世間の正直な感想だ。  花与は胸を痛めつつも、納得せざるを得なかった。  ただ静かに、この場での自分の役割を考える。  シオンはそんな花与のことを、観察するようにじっと眺めていた。 「みんな」  立ち上がったのは月岡だった。  ここは自分が場を和ませなくてはならない。  最早条件反射のように身体が動く。  ……もちろん、己の好感度の為に。 「おい聞こえてんだよ」  しかし彼の気配りには及ばなかった。  花与は勢いよくエキストラ達の元に近づき、鋭い目で睨みつける。 「な……」  その凍るようなオーラに、エキストラ達は立ち尽くし言葉を失った。 「面と向かってハッキリ言いなよ。ホラ、ちゃんと聞くからさ。……まあ、指相撲に勝てばの話だけど」 「は!?」  面食らって目を見開いた一人の青年の手を握ると、そのまま彼の親指に自身の親指を被せる。 「123456789じゅう!」 「はー!?」  騒然とする現場を、月岡とシオンはポカンとしたまま傍観するしかなかった。 「よわ。発言権なしね」 「なんだよお前! 頭おかしいんじゃねーの!」 「指相撲勝ってから言いな! 雑魚が」 「悪女そのまんまだな!」 「ありがとうございまーす!」  不敵な笑みを浮かべると、圧倒されていたエキストラ達から小さな笑いが溢れた。 「何この人! ホントにアイドル?」 「なんか面白いかも」  笑顔になっていくエキストラ達の変化を、月岡とシオンは見逃さなかった。 「よーし次、誰勝負する?」 「俺! 俺もやってみる!」 「負けたら悪口言うなよ?」 「小学生かよ」  結局、次の撮影までエキストラ達と騒いでいた花与。  あまりにも無邪気な笑顔と強靭なメンタルに、シオンはまだ信じられない心境だった。
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