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何故そこまで、自分を安売りできるのか。
ここまで貶され、蔑まれながらも、何故こんな役にしがみつく?
しかも女優でもないアイドルが。
シオンは花与の行動の全てが理解できず、困惑する一方だった。
彼女がここまで誰かに対して興味をもったことは、初めてと言っていい。
シオンはハーフであり、幼少時代に父の母国であるカナダで過ごしていたことも起因するのか、とにかく適応力に長けていた。
大抵のことは求められる以上の能力を発揮できたし、語学を始め、同時進行でいくつもの異なるタスクを難なくこなせた。
その力はこの業界で生きていくにはとても役に立った。
ランウェイを歩けと言われたら颯爽と歩けたし、演技をしろと言われたら粛々と架空の人物になりきれた。
しかしそれ故に、ひとつも手応えを感じたことがない。
「なんでそこまでできるの?」
撮影前、シオンは花与に話しかけた。
ほとんど初めての会話だったので、花与は驚きを隠せなかった。
「なんで、そこまでしてこんな役にこだわるの」
純粋な疑問のような聞き方に、花与は戸惑った。
「お願い。教えて」
しかし哀願ともとれる彼女の必死さに、花与は自身の考えを巡らせる。
「……うーん。心を動かしたいから」
「心を動かす?」
思ってもみなかった、言ってみれば在り来たりすぎる、お手本の様な解答に、シオンはますます頭を悩ませた。
「本当の私を見てくれる人達の、心を動かしたいから」
そう言って柔らかく微笑んだ花与に目を奪われたシオン。
驚くほど胸が高鳴り、身体中の血が巡り、息をするのも忘れた。
なるほど。
シオンの心の奥底から、今まで感じたことのない地鳴りのような感情が沸き起こった。
悔しい。欲しい。近づきたい。
なりたい。……あなたの様に。
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