恋せよアイドル

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「………なんだよ」  台本を片手に呆然とする月岡。  花与の突然の乱入に、困惑した彼はいつものような敵意を見せる余裕もなかった。  そんな月岡に、余計花与の目は泳ぐ。 「違う! あの、えーと遠石さんが!」  そう遠石の名を出した瞬間、月岡の目の色が変わった。  花与は、初めて彼の瞳に本当の光が宿った気がした。 「遠石って遠石研真!? 今いんの!?」  月岡は慌ててドアを開け外に遠石の姿がないか確認するが、そこには誰もいない。  ガックリと肩を落としてドアを閉める月岡に、花与は困惑した。 「遠石さんのこと知ってるの?」  月岡の様子からして、まさかただならぬ関係なのでは、と邪推し何とも言えない気持ちになる花与。 「ああ。養成所の頃の先輩だから」 「養成所!? 先輩!?」 「歌もダンスもめちゃくちゃ実力あって、俺達の間でも有名な人だった。だけどデビューも目前って時に突然辞めたんだよ。今は裏方に回ってアイドルの育成してるって聞いてたけど、まさか」  突然睨みつける月岡に怯む花与。 「まさかお前みたいなクズの育成してたとはな」  “クズ”  さすがにその言葉だけは受け入れ難かった。  自分だけではなく、今まで力になってくれた人達まで侮辱されているような気持ちだ。  そう、彼が目の色を変えるほど興味を持っている遠石のことも。 「……私は“クズ”じゃない。遠石さんのこと、バカにしないで!」  貫くような目で見つめる花与に、今度は月岡が怯んだ。 「だ……って、アイドルになったのは男漁りする為なんだろ?」  晴臣と同じことを言う月岡に、軽蔑とショックで身体が震えた。 「……そんなわけないでしょ。そんな馬鹿な理由の為にここまで、……ここまで夢中になると思う!?」  歌うことも、かけがえのない人達と出会うことも、表現することも。  全ては天から与えられた奇跡みたいに繋がって、自分の血となり肉となっている。  そのことで誰かに花を与えられたら。  誰かの心を華やかにできたら。  それだけがアイドルをする理由だ。 「誰に何言われたか知らないけど、これ以上私という商品を、それを作ってくれた人達を馬鹿にするようなら許さない。あなたこそクズだよ」  花与の内側から滲み出てくるような気迫に圧倒され、ついには月岡も目をそらした。 「……悪かったよ。警戒しすぎた」  脱力したように月岡が言った。 「怖かったんだ。アイドルが」
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