125人が本棚に入れています
本棚に追加
「………なんだよ」
台本を片手に呆然とする月岡。
花与の突然の乱入に、困惑した彼はいつものような敵意を見せる余裕もなかった。
そんな月岡に、余計花与の目は泳ぐ。
「違う! あの、えーと遠石さんが!」
そう遠石の名を出した瞬間、月岡の目の色が変わった。
花与は、初めて彼の瞳に本当の光が宿った気がした。
「遠石って遠石研真!? 今いんの!?」
月岡は慌ててドアを開け外に遠石の姿がないか確認するが、そこには誰もいない。
ガックリと肩を落としてドアを閉める月岡に、花与は困惑した。
「遠石さんのこと知ってるの?」
月岡の様子からして、まさかただならぬ関係なのでは、と邪推し何とも言えない気持ちになる花与。
「ああ。養成所の頃の先輩だから」
「養成所!? 先輩!?」
「歌もダンスもめちゃくちゃ実力あって、俺達の間でも有名な人だった。だけどデビューも目前って時に突然辞めたんだよ。今は裏方に回ってアイドルの育成してるって聞いてたけど、まさか」
突然睨みつける月岡に怯む花与。
「まさかお前みたいなクズの育成してたとはな」
“クズ”
さすがにその言葉だけは受け入れ難かった。
自分だけではなく、今まで力になってくれた人達まで侮辱されているような気持ちだ。
そう、彼が目の色を変えるほど興味を持っている遠石のことも。
「……私は“クズ”じゃない。遠石さんのこと、バカにしないで!」
貫くような目で見つめる花与に、今度は月岡が怯んだ。
「だ……って、アイドルになったのは男漁りする為なんだろ?」
晴臣と同じことを言う月岡に、軽蔑とショックで身体が震えた。
「……そんなわけないでしょ。そんな馬鹿な理由の為にここまで、……ここまで夢中になると思う!?」
歌うことも、かけがえのない人達と出会うことも、表現することも。
全ては天から与えられた奇跡みたいに繋がって、自分の血となり肉となっている。
そのことで誰かに花を与えられたら。
誰かの心を華やかにできたら。
それだけがアイドルをする理由だ。
「誰に何言われたか知らないけど、これ以上私という商品を、それを作ってくれた人達を馬鹿にするようなら許さない。あなたこそクズだよ」
花与の内側から滲み出てくるような気迫に圧倒され、ついには月岡も目をそらした。
「……悪かったよ。警戒しすぎた」
脱力したように月岡が言った。
「怖かったんだ。アイドルが」
最初のコメントを投稿しよう!