恋せよアイドル

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「デビューしてすぐの時、テレビで共演したアイドルと噂になったことがあって。たった一枚写真撮っただけなのに、その子がまるで付き合ってるかのように匂わせてSNSにアップしちゃったから」  普通に会話している月岡を見るのは初めてで、その素朴ぶりに驚いた。  天然ぶって愛嬌を振り撒くわけでも、敵意剥き出しで攻撃してくるわけでもない。  全くの別人になりきって話しているわけでもない。  一人の人間として向き合ってくれた月岡に、花与は安堵した。 「一部からバッシングは受けたけど、その子はそれを機会に知名度が上がって、今ではバラエティーに欠かせないくらいの人気アイドルだ。……でも、俺は」  月岡の表情から、苦悩の念が滲んだ。 「デビュー前からずっと応援してくれてたファンを失望させた。今でも忘れられない。彼女達の悲しんだ顔と言葉が」  心底、悔しそうに顔を歪ませる月岡を見て、再び確信した。  この人はやっぱりプロだ。  魅せることしか考えていない。  見てくれる人、ファンのことしか。 「その時誓ったんだ。もう二度とファンの人達を悲しませるようなことはしないって」 「だから私達アイドルに警戒を?」  月岡は頷いた。 「失礼な態度をとって悪かったと思ってる。……だけどここまでしないと、また寄ってくる子もいるから。俺、アイドルを始めた以上、辞めるまでは誰とも付き合わない、そう思わせる行動をとらないって決めたんだ。恋愛してる暇があったら、少しでも表現者として自分を磨いて、それをファンに還元したい」  月岡が話し終えると、花与はその場にガクッと項垂れた。  突然跪く花与に、月岡は唖然とする。  ……負けた。  彼は生粋のエンターテイナーだ。  ここまで実直に、自分のすべきことを遂行しているアイドルを初めて見た。  ここまでファンの人達のことを大切にしているアイドルも。 「私の負けです。……弟子にして下さい」   「は!?」 「……私、まだまだアイドルとして未熟だった。アンチの目ばっかり気にして、応援してくれてたファンの人達のこと、大切にできていなかった」  blossom時代から応援してくれていた角田や助川は、あのスキャンダルや脱退の時、どんな気持ちだったんだろう。  きっと失望したに違いない。  それなのに、ソロとしての活動も応援してくれている。  その重さを、もう一度思い知らなければならない。 「……ありがとう。目が覚めた」 「いや、急に礼言われても。っつーか顔上げろ! こんなとこ誰かに見られたら、俺の好感度下がるだろーが!」  この愚直さを目の当たりにして、彼の演技に心がないと感じた理由がやっとわかった。  彼は本当に、祐介として愛子を愛している。  祐介が憑依しているのだ。  恐ろしいくらい、彼は芝居に関して天才だ。  だからこそ、自分が愛子になりきるしか、彼の心を感じとれる術がない。  もしくは、花与として、“月岡”に愛されるか。  どちらにしても無理難題だ。  遠石の意図していることがやっと解り、寒気を感じる花与だった。
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