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「これ、あんたが作ったの?」
小泉演じる、祐介の母は、愛子が作った不格好な料理を見て驚いた。
「嫌なら食べなくていいけど」
少し恥じらいを見せつつ、照れ隠しに悪態をつく愛子を、祐介は愛しそうに微笑む。
「……意外とうまいじゃないか」
西園寺の役、祐介の父は、味噌汁を啜ってそう一言呟いた。
「愛子ちゃん、最近頑張ってますよ。腹を括った女は強いんです」
先輩家政婦役の猫美が嬉しそうに誉めちぎり、愛子の顔に微かな喜びが浮かんだところで、このシーンが終わった。
監督やスタッフ達の満足げな表情に、手応えを感じる花与。
まるでこのドラマの設定と比例するように、花与の演技や周囲との関係性も良い方向に進んでいる。
当初の不安や疎外感も薄れつつある花与を、ずっと見守り続けていた猫美も安堵の目で見つめた。
「うっし。野崎ちゃん飲みいくぞ」
「え!? 今日もですか!?」
最近では恒例となった共演者達との飲み会。
酒は得意ではないが、大物俳優達からの誘いは断れない。
「花与、今日はとことん腹割って話すわよ」
最初は敵意を見せていた小泉も、今では喧嘩しながらも可愛がってくれるようになった。
「ミルキーマウンテンも満を持して参加を表明いたします!」
両手を上げて宣言する猫美に笑いが起こった。
そしてもう一人。
「花与ちんが行くなら私も行く!」
花与の腕を両手で掴んで離さないシオンだ。
突然自分に懐き、天真爛漫にまとわりつくシオンに、花与は困惑するしかなかった。
彼女は自分の出番がない日にも、毎日のように花与の演技を見に来ていた。
その目は当初の傍観者ではなく、しっかりと光が宿っている。
興味を持った相手にはとことん執着するというのが、シオンのピュアさを物語っているかもしれない。
「行こ! 花与ちん!」
「う、うん……」
ぞろぞろと揃ってスタジオを後にする中、ふいに月岡と目が合った。
彼は相変わらず冷ややかに、なんの感情も見せずに花与を見つめている。
「つ、月岡さんは飲み行かないの?」
思いきって声をかけた花与に、月岡はこれ見よがしに営業スマイルを見せつけた。
「ああ。ごめん。これからもう1本収録があるんだ」
爽やかな笑顔。
さすがは一流アイドル。多忙スケジュールの中でも疲労など微塵も醸し出さない。
「それより明日、よろしくな」
「明日って?」
明日は久しぶりに収録がなく、オフのはず。一日中、歌唱トレーニングに集中できると心を踊らせていた日だ。
目を丸くする花与に、呆れたようにため息をつく月岡。
「明日、俺ら番宣ロケだよ」
「え!?」
そんな話は遠石から一言も聞いていない。
「ねえ」
ひらひらと手招きするのにつられて月岡に近づく花与。
彼は花与の耳元に顔を近づけると、そっと囁いた。
「……足引っ張んなよ」
普段とは違う震え上がるような低い声に、花与は苦笑いする。
「ちょっとー! 月岡さん、私の花与ちんに手出さないでくださいよ!」
そこで意味不明なシオンの嫉妬が入り、月岡は手を振ってすぐに去った。
“誰がこんなんに手を出すか”
そう顔に描きながら。
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