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普段、温厚で愛嬌のある月岡。
こんなふうに怒りを爆発させ、声を荒らげる彼をマネージャーすら見たことがなかったので、周囲は困惑し、撮影を中断するか迷うほどだった。
花与は面白そうに笑って、店員達に話しかける。
「いつもこんな感じなんですよ。私が話しかけても、近寄るなって。酷くないですか? 共演者なのに」
普段のざっくばらんな口調に戻った花与に、店主は目をぱちくりさせている。
「ストイックすぎません? ファンのことしか頭にないんですよ」
「そ、そうなんですか……」
真っ赤になって立ち尽くす月岡。
店主は、彼を見て突然泣き出してしまった。
「ちょ、ちょっとご主人! 大丈夫ですか!?」
ますます狼狽える月岡に、店主は涙を拭いながら言った。
「……ありがとうございます! ファンのこと、大事に思ってくれて……」
「ご主人……」
尚も顔を紅潮させながら、月岡は店主にペーパーナフキンを手渡す。
そこで他のスタッフ達の悲鳴が響いた。
「メグタン、優しすぎる!」
「私、もっとファンになりました!」
「一生ついて行きます!」
涙を流しながら嬉しそうに微笑む彼女達を見て、月岡は悟った。
何食わぬ顔で自分だけラーメンを食べ始めている花与を一瞥する。
……こいつ、わざとだな。
一度目を瞑ると、吹っ切れたように再び席につき手を合わせた。
「いただきます!」
「月岡さん勝負しましょう」
「勝負!?」
「先に全部食べ終わった方が勝ち。負けたら西園寺さんのモノマネね」
「ふざけんなよ! 勝手に決めんな!」
「え? 負けるの怖いんすか?」
「うっせー負けねー」
また言い合いが始まる二人に笑いが起こった。
「野崎さん勝って下さいね」
「メグタンのモノマネ見たい!」
店主達の言葉に、花与は屈託なく微笑んだ。
「よっしゃ任せて下さい! じゃあ月岡さん負けたら更にご主人達と視聴者の皆さんに私物プレゼントで」
「勝手に決めんなって!」
拍手喝采が巻き起こる中、二人は勢いよく麺を啜る。
「うんま! 口がゴートゥーパラダイス!」
……こいつ、本当にアイドルか。
月岡は涼しい顔でラーメンを食べる花与の横顔を見て、寒気を感じていたのだった。
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