姫と執事の内緒

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エドガーの暗殺未遂や姫の偽物騒動があったあの日から数日後。 城の廊下を二人仲よく歩く姿があった。 「では、エドガー。 行きましょうか」 「はい」 結局、エドガーはニーナの押しに負けこの城に留まることにした。 元々、エドガー自身の事情で城を去るとの話だったため、それが解消されたということにすれば撤回も容易だったのだ。  四角い窓から見えるのは晴天で、城下へ行くには最適な天候だ。 ―――そう言えば、怪盗騒ぎはどうなったのかしら? ニーナは一つだけ腑に落ちないことがあり、それはあれ以降も疑問に思っていた。 怪盗なんて影も形も現れることもなく、城の者も首を捻っていたくらいだ。  もっとも今はそのようなことを気にする必要もない、そう思ったところで廊下の向こうから教育係がやってくる。 「姫様! 丁度いいところに。 一つご報告があります」 「何ですの?」 「怪盗が現れる件についてですが、無事解決いたしました。 もう怪盗は現れないそうです」 「あら、そうなの?」 「はい。 どうか、ご安心してお過ごしください」 「分かったわ。 でももうしばらくは、お城の強化をしておいた方がいいと思いますわよ」 「その通りでございますね。 用心に越したことはありませんので。 では、失礼します」 教育係が去ったのを見てエドガーは言う。 「では、我々も行きましょうか」 エドガーはニーナを怪盗から守るはずなのだ。 にもかかわらず、エドガーは教育係の言葉を聞いて何とも思ってない様子だった。 城下へ向かいながらも不思議に思っていると、エドガーが耳を疑うようなことを言うのだ。 「怪盗の予告状を出したのはエドガーですって!?」 「しーッ。 姫様、声が大きいです」 「どういうことですの? 確かに最初は宝石を盗みに来たと仰っていましたが、あれは嘘でしたわよね?」 「はい。 本当の計画を成功させるために、あのような嘘の予告状を出さなければならなかったのです」 誰でもいいから城の者にエドガーが宝物庫にいるということを発見してほしかったらしい。 そしてニーナと同じように相手の秘密を打ち明け見たことを内緒にしてもらう。 宝物庫に皆の意識を集めたところで王の暗殺をしようとした。 それが狙いだった。 「ちなみに、城の者の秘密は全て調査済みです。 まさか姫様が一番最初に現れるなんて、思ってもみませんでしたが」 「エドガーが宝物庫にいると、誰かに知ってもらう必要はありましたの?」 「この城を辞めるきっかけを作りたかったのです。 王様を殺して、事情もなく執事を辞めたら怪しまれるので。 内緒にしてもらった理由は大事にしたくなかったからです」 「そういうことですの・・・」 「本当の僕の目的は、盗みだと証言してほしかった。 実際に盗む予定はありませんが、これで皆から敵意を持たれる。 この城に居にくくなったから辞めた。 これで辞める理由の出来上がりです。  そして辞める直後に殺す、というのが僕の計画でした」 「それで運悪く私と出くわしたのね」 「その通りです。 本当、姫様は大事な時に僕の前に現れますよね」 ニーナはエドガーが宝物庫にいたことを完全に内緒にしてしまった。 エドガーからしてみれば、それで大きく計画が崩れてしまったらしい。 「私がエドガーに会いたいと常に願っているから叶うのです。 それで、告白の返事は?」 「それ、聞かなかったことになりませんでしたっけ?」 「私はその発言に頷いてはいませんよ」 「僕はもう怪盗でもなく、暗殺者でもない。 姫様のただの執事ですよ?」 「姫と執事の恋もいいと思わない?」 エドガーはそれを聞き軽く溜め息を漏らす。 「それは僕が、姫様に好意を寄せている前提の話ですね」 「あら、駄目なの?」 「考えておきます」 二人はニーナの実家の前まで来た。 家の前では本物の姫が花を売っていた。 本物の姫は驚いた顔をしている。 「ひ、姫様!?」 「ごきげんよう。 その売っている花、全てくださらない?」 「え、全てですか!?」 「えぇ」 「ちょ、ちょっと待っててください! お母さーん!」 本来逆であったはずの二人。 あまりの慌て振りに微笑ましい半面、少々の罪悪感を感じる。 それからすぐに慌てた様子で母が家から出てきた。  母が正面から堂々と再来したニーナとエドガーを見て驚いたのは当然のことだろう。 母とエドガーは面識があるからだ。 エドガーは丁寧にお辞儀をした。 「ここにある花、全てくださらないかしら?」 「わ、分かりました」 この選択が正解だったのかニーナには分からない。 ただこの小さな家族のことは自分の命に代えても守らないといけないと思っていた。 できれば、同年代であるためもっと親しくなりたいところ。  この花売りになった姫が城に招かれることになるのは、ニーナの性格を考えれば遠い話にはならないのだろう。 「また、近いうちに会いましょう」 本物の姫であるはずの少女は困惑しつつも、大輪の向日葵のように笑顔を咲かせていた。                               -END-
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