姫と執事の内緒

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姫と執事の内緒

「ん・・・」 ニーナが城の自室で目覚めたことに深い理由はなかった。 前日の16歳の誕生パーティの興奮が冷めていなかっただけなのかもしれない。 天蓋の薄いレースから見るに外はまだ真っ暗で、目覚めるにはまだ早過ぎる。 そうは思うが目が冴えてしまいなかなか寝付くことができない。 ―――今は何時・・・? 部屋の電気をつけると、眩しくて目が眩んだ。 掛け時計で確認するとまだ4時だった。 ―――喉が渇いたわ。 いつものように執事を呼ぼうとするが今の時間を考え止めた。 ―――流石に今起こすなんて非常識よね。 ―――まぁエドガーなら『いつでもお呼び申し付けください』とか言うでしょうけど。 ―――申し訳ないから一人で行こうかしら。 エドガーはニーナより少し年上の執事だ。 ようやく一年目になるところで段々と信頼できるようになってきた。 いつも優しく爽やかな青年のイメージだ。 ―――慣れているお城でも暗くて一人になると結構怖いものね・・・。 ―――少し寒いわ。 ―――何か羽織ってきた方がよかったかしら? 隣にエドガーがいたらニーナの身体を気遣い、すぐに気付き羽織るものをかけてくれるところだが、今は一人切り。 何気ない日常でその存在の大切さを知りつつ、キッチンへ向かい水差しから水を灌ぐ。  冷たさが喉を通り、ますます目が覚めてしまう。 ―――・・・うん、美味しい。 コップを洗い元の場所へ戻したのは、深い意味はない。 このまま放置しても明日になればメイドが何も言わず片付けてくれるはずだ。  ただそうしなかったのは、やはり深夜に徘徊していることにバツの悪さを覚えたからなのかもしれない。 もう一度外を眺めてみれば、やはりまだ暗くこのまま起きている理由もない。  自分の部屋へ戻ろうとしたその時、かすかに物音が聞こえた。 ―――一体どこから? 音を頼りに進んでいくとそこは宝物庫だった。 たくさんの国宝が置かれている場所で、夜は厳重に鍵をかけられているはずの場所だ。 ―――まさか!? ニーナは慌てて宝物庫に駆け寄った。 その足音が聞こえたのか、ピタリと動きが止まる一つのの影。 「そこから動かないで!」 ニーナはそう言って宝物庫に侵入していた人物の姿を確認しようとした。 そして視線が重なり合うと目を疑うことになった。 「・・・エドガー?」 「おやおや、姫様でしたか。 こんな時間にお目覚めですか?」 そこにいたのは執事のエドガーで、ニーナは先日教育係に言われていたことを思い出していた。 「貴方だったの!? 宝石を頂戴すると言っていた怪盗は!」 「姫様、しーッ。 城の者が起きてしまいます」 そう言ってエドガーは口元に人差し指を当てる。 怪盗はエドガーだった。 一番傍にいて一番お世話になっていた執事なのだ。 驚かないわけがなかった。 「ご、ごめんなさい・・・」 ニーナは慌てて口元を抑え謝ったのには、まさかエドガーがやるはずがない。 そのような思いがあったのかもしれない。 もしエドガーが賊であるなら、自分は今頃危険な目に遭っている。  なのにエドガーはいつも通りに見え、そのまま申し訳なさそうに言うのだ。 「姫様。 どうかここは見なかったことにしてもらえませんか?」 「何を言っているの?」 「そのままの意味です。 僕はここにはいなかった。 そういうことにしておいてほしいのです」 首を横に振って天井を見上げる。 「無意味ですわ。 ここには監視カメラがありますもの」 「その映像も後で完全に処理します。 姫様の姿も映っておられるので、慎重に行いますよ」 「それでも貴方が怪盗だったことが許せません! 長い月日を得てようやく信じられたのに、簡単に裏切られた気分ですわ! 今すぐに誰かを」 「姫様の秘密も打ち明けてしまっていいんですか?」 エドガーは基本的に姫であるニーナの発言を遮るようなことはしない。 にもかかわらず今はそれをした。 そこにやはりいつものエドガーではないとニーナは思った。 「・・・秘密? 何のことですの?」 「姫様だって、自分は本物の姫だと偽っているでしょう?」 「ッ・・・!」 張り付けたような笑顔の下にある真意をニーナは測りかねていた。 
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