姫と執事の内緒

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エドガーは右に左にと目を泳がせてみせた後、諦め交じりに息を吐いた。  「もう結構です。 俺の計画は全て台無しに終わりました」 エドガーは少々投げやりな様子で、以前から知っていた口調とは変わってしまっている。 元々怪盗であるということは分かっていたため、これが本来の彼の姿なのかもしれない。 「それは私のせい?」 「はい。 でもご安心ください。 姫様には手を出さないので」 「私を介抱してくれていたの?」 「えぇ。 あんな廊下で倒れていたら大騒ぎになりますからね。 姫様の部屋に運んでもよかったのですが、城の者に入ってこられるのは不都合だったもので」 エドガーの雰囲気が変わってしまってもニーナの想いは変わらなかった。 確かに大騒ぎになる可能性は高い。 しかし、今日でこの城を去ると言ったエドガーからしてみればあまり関係がないはずだ。  にもかかわらず、こうしてベッドで寝させてくれ汗も拭いてくれている。 勝手な勘違いかもしれないが、恐らく根っからの悪人ではないのだろうと感じた。 「私を介抱してくれたなんて、貴方はやっぱり優しい執事ね」 「お止めください」 「エドガー、本当のことを教えなさい。 どうしてお父様の部屋の前にいたの?」 しばらく沈黙した後エドガーは言った。 「・・・驚かないで聞いてくれますか?」 「話してくれるのですか?」 「聞いてきたのは姫様でしょう。 もう何も悪さはしないので、全て本当のことをお話しても大丈夫です。 捕まって処刑されることも覚悟しています」 「それ程重たいことをしようとしていたのね。 ・・・一体何を?」 「俺は王を暗殺しにきました」 「なッ・・・!」 あまりにもあっさりと打ち明けた衝撃の事実に、ニーナは言葉を失ってしまう。 例え本当の親でなくてもニーナにとって王は大切な人で、そのほとんどの思い出は本物だ。  もっともそれは王がニーナを本当の娘だと思い込んでいるため、真実を知ればどうなるのかは分からない。 それでも今のニーナにとっての居場所はここにあるのだ。 「本当の目的を知り失望しましたか?」 「・・・では家宝を盗むというのは!?」 「元々家宝なんて狙っていません」 「ならどうして今朝、宝物庫にいたんですの?」 「・・・・・・宝石の点検ですよ。 盗まれていないかどうかの」 長い沈黙からエドガーは言葉を濁すように言う。  「そうでしたの・・・。 では、どうしてお父様を殺そうとしたのですか? 私に話してくれた、弟様を養いたいという話は?」 「俺に弟がいるのは本当です。 いえ、いた、というのが正しいのでしょうか。 既にこの世にはいませんから」 「ッ・・・」 弟がもういないといったエドガーは笑顔だったが、今まで見たどんな時よりも寂しそうに思えた。 初めてエドガーの本当の感情に触れた気がしたのだ。 「姫様は存じ上げないでしょうが、この国は厳格な一人っ子政策をしているのです」 「一人っ子政策?」 「子供を二人以上産むのは禁止されているのです」 「そうなんですの!? 私、知りませんでしたわ」 「これは俺が大きくなってからの話ですが、両親から『貴方には本当は双子の弟がいた』と聞かされました。 後から産まれた弟は、その場で殺されたみたいです」 ニーナは何も言えず言葉を失った。 「だから俺はその法律を決めた王に復讐をしようとした。 これが全てです」 「どうして私はその法律を知らなかったんですの? 勉強でも教わりませんでしたわ」 「子供を殺すなんて、自分の娘には教えたくないでしょう」 「それなら他の者からでも聞けたはずです」 「王様が皆に口止めをしているのですよ。 姫様には言うな、と」 溜め息交じりでそう言うエドガーにニーナは覚悟を決めた。 「・・・分かりました。 では私が、この国の女王となってその法律を変えてみせます」 「はい? どうしてそこまで姫様がなさるのですか?」 「その理由は先程に言ったでしょう? 貴方のことが好きだから救いたいのです」 「・・・」 「その代わり、一つ条件があります」 「・・・何ですか?」 「貴方はここに残り、私が女王になるのを見届けてください。 そして怪盗からも守ってください。 それが条件です」
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