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エドガーは窓の方へ顔を向け、ニーナもそれに倣うと空が赤らみ始めていた。 使用人の朝はかなり早く、もう起きて活動し始める者も出てくる頃合いだ。
「そろそろ使用人たちが起き始める時間です。 二人でここにいると怪しまれるので戻りましょう」
「・・・えぇ、そうね」
二人揃って宝物庫を後にする。 よく顔の知れた二人であるが、こんな早朝に宝物庫の周囲でうろついているところを見られるのは流石にマズい。
しかし、廊下を歩いていると間の悪いことに見回りの騎士の一人と出会ってしまう。
「姫様とエドガー様!? こんな早朝に一体何を?」
「え、あ、えぇと、エドガーに子守唄でも歌わせようと思って」
無茶苦茶な言い訳にエドガーはフォローを入れた。
「姫様、何を仰っているのですか? 今から寝たら起きられなくなりますよ。 今は眠れない姫様と散歩がてら話をしていただけです」
「そ、そうでしたわね」
ニーナは作り笑いをする。 それに反しエドガーはいつもと変わらない表情だった。
「そうですか・・・。 何もないのでしたらよかったです。 失礼しました」
深くお辞儀をし騎士は離れていく。 怪しんだ可能性はあるが、何に対し怪しむのかは分からないだろう。 もしこれで宝物庫から何かなくなりでもすれば疑われるが、二人は何もしていないのだ。
「嘘が下手ですね、姫様は」
「嘘なんてついたことがありませんもの! そういうエドガーこそ、どうしてそんなに自然体でいられますの!?」
「本職上、慣れてしまいました。 如何なる時でも姫様に忠誠を誓っていますので」
「・・・そうでしたわね」
「姫様。 折角なので今日は早めに朝食になさいますか?」
「そうしようかしら」
「かしこまりました。 では使用人たちに伝えに行きますので、姫様は召し物のお着替えをお願いします」
「分かったわ」
「では、失礼します」
エドガーは恭しく頭を下げると、足音も立てずに去っていった。
―――・・・何よ。
―――淡々と仕事をこなしちゃって。
―――私はこんなに頑張って平然を装おうとしているのに!
自室へ戻り着替えると食事場へと向かった。 既に朝食は並んでいる。 挨拶をし食べ始めると今日もいつも通り教育係が一日の予定を伝えにきた。
「姫様、お食事中に失礼します。 今日のご予定は――――」
ただ何故か異様に予定を伝え終わるのが早かった。 普段毎日の繰り返しで飽き飽きしてしまうという不満があったりはするが、暇であればそれはそれでつまらない。
「というわけで、今日の午後はレッスンも勉強もなくお休みでございます」
―――・・・今日に限ってやることがないなんて。
―――こういう時だからこそ、レッスンに打ち込みたかったわ。
「姫様? どうかなさいました?」
「い、いえ」
「左様でございますか。 では午後からの時間はどうか有意義にお過ごしください」
教育係が去ると同時にエドガーが近寄ってくる。 先程のこともあり、エドガーの顔を見ると心臓の鼓動が早くなってしまう。
「姫様、お飲み物のおかわりは?」
「えぇ、お願い」
エドガーはいつも通りの優しい笑みを浮かべていた。 だが今はその笑みがどうも怪しく見えてしまう。
「・・・何なの?」
「何がですか?」
「その笑顔よ」
「何かおかしいですか? いつも通りですよ」
―――どうしてそんなに自然体でいられるのかしら。
―――私がそんなに嘘を演じるのが下手なの?
―――・・・それにしてもエドガーが言っていた、私が偽物の姫だという話。
―――あれは本当なのかしら。
エドガーが優雅にお茶を入れる後姿を見ながら、未だに信じられないと思う自分がいた。
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