第一章 嘘と方便

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「出雲がいて助かった」 夕方先生が無事、事務所に戻ってきた。 手には大阪名物「りくろーおじさんのチーズケーキ」。 ふんわりふわふわな出来たてがお店で売られているチーズケーキで、一度食べたいと思ったけれど京都には無いのでチャンスが無かった。 箱が私の頭上に浮き上がるのでじっと見ていると先生と目が合った。 「お前な、さっきからこれしか見てないだろ」 「お帰りなさいっていいましたよ。それ、誰かへの手土産ですか?」 「そんな物欲しそうにしてるやつがいるのに無理だろう。今切ってくれ、食いたい」 「私も良いですか?!」 自分の手を握りしめながらキラキラした瞳で先生を見上げると、ぶ、と笑われた。 「当たり前だろ」 自分の顔が明るくなってしまう。嬉しい!これ一度食べたかったの! うきうき箱を持ってキッチンで箱を開けると、見事にべちゃっと崩れているのが目に入ってきて急激にテンションが下がった。
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