第一章 嘘と方便

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このふわふわ繊細なケーキを先生が無傷で大阪から運べるわけが無い。そもそも扱いが日頃から乱暴だし、絶対斜めになっているのを気付かず持ってきた気がする。 それでもわざわざお土産を買ってきてくれることは嬉しいし、先生には何とか無事そうな場所を切ってコーヒーと共に先生の机に持っていけば、先生は鞄から出した資料を途中にしたままパソコン画面をじっと見ていた。 「ここにケーキとコーヒー置いておきますね」 先生からは返事が返ってこない。 おそらくあまり良くない内容でも見ているのだろう。眉間に皺を寄せて画面を睨むような姿が気になりながら、私は自分のケーキを取りにキッチンへ戻った。 こういうふわふわチーズケーキ最高だなぁ、東京にもこういうのあった気がするけれどなんて思いつつケーキを食べながら先生の机を見れば、ケーキは既に無くなっているけれど表情はずっと険しいまま。 触らぬ魔王に祟り無し。 きっと難しい案件が起きたのだろう。しかし先生ならきっと大丈夫だ。 そう思って自分の仕事を再開した。
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