第一章 嘘と方便

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今日は昼前から来て夜6時までの予定だったので6時過ぎて様子を見て先生に声をかける。 「先生」 机に広げられた書類から先生が顔を上げるが、不機嫌なのがオーラでわかって頬が引きつりそうになる。 「今日はもう帰っても大丈夫でしょうか。それともまだ残った方が良いでしょうか」 先生は腕時計を見て6時を過ぎたことを初めて認識したようだった。 「あぁもうこんな時間だったか」 「何かご飯でも買ってきましょうか?」 先生は椅子に座ったまま立っている私を見上げている。 何だか様子が変に思えて気になってしまう。 「そろそろ二年のコースを決める時期だな」 「はい」 うちの大学は二年からコースが分かれる。ようは大学卒業後ロースクールを目指すのか、普通に大学を卒業するのかどうか。 新年明けて一月ももうすぐ半ば、周囲では入学当時から決めている子も多い中私はロースクールコースに進むことをようやく決めた。
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