兄弟になる男1

1/1
219人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ

兄弟になる男1

一総(かずさ)の気分は最悪だった。 父親が職場で知り合ったバツイチ子持ちの女性と再婚をすると言ってきた。それを聞いたのが3日前ーーー 父親の人生だし一総ももう高校2年生だ。口出しするようなお子様でもない。 しかも1人っ子で一総の中でも兄妹というものに憧れていた時期もあった。 可愛い妹、もしくは綺麗なお姉さん。妥協して出来の良いお兄さんなんてものが出来たらそれはそれで何だかいいかも……なんて思っていた。 そして今リアルタイムで再婚前提の初顔合わせ中なのだがーーー 「一総、こちらが涼子(りょうこ)さん、そして息子さんの和志(かずし)くんだ。で、この子が僕の自慢の息子の一総です」 「一総と言います。よろしくお願いします」 一総が軽く頭を下げると前の席の青年が一総の顔をチラッと見て馬鹿にしたように小さく笑った。 「自慢の息子……ねぇ」 それに一総はムッとする。 「そうだよ?一総はねぇ、家事全般何でも出来てそれにそこそこ成績もいい方だ。僕は本当に一総に頼りきりでね?親に心配を掛けないとてもいい子なんだよ」 「と、父さんもういいよ。恥ずかしい……」 思わず一総の顔が赤くなった。 【なんだなんだ、なんなんだ?このプリンスホテル内の高級レストランにそぐわない、僕の兄弟になるべくここに座っているこの男は!】 そいつ、和志という男は今の今まで一総達が席に着いても母親の隣でブスッとつまらなそうにテーブルに片肘を付いて1度もこちらを見ようともせず、ずっと窓の外を眺めていたのだ。 それだけならまだしも、髪は茶髪でサイドを刈り上げワックスか何かで立てて、眉毛は爪楊枝。これではガラの悪いただの…… 【ヤンキーじゃないか】 一総の頭の中で、奴の後ろで嶋○輔の『男の○章』が流れている。 ツッパリそれが男の~♪っていうやつ。 流石に服装はここに入れないせいか、スーツにネクタイだけれど。 「ほら、和志。貴方もちゃんと挨拶しなさい」 一総をジロッと上目遣いで見てニヤリと笑うと「夜・露・死・苦」とソイツは言った。 【夜・露・死・苦って凄まれても。……僕こんな奴と本当に兄弟になるのか?】 一総の理想の兄弟像が見るも無惨に足元からガラガラと崩れていく。思わず溜息が漏れた。 「ごめんなさいね。こんな馬鹿だけど仲良くしてやってね?」 「は……はぁ」 【はっきり言って自信……ありません】
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!