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スマホをタップすると聞こえる 2次元アイドルしずくちゃんの音声。 『起きてくださあーーい♡』 俺と莉子が初めて話したきっかけは このしずくちゃんの音声だった ある日  カリカリと筆圧の音しかない教室で この音声が 自習室に鳴り響いた。 アラームが  鳴り響いた瞬間 俺の人生は終わったと思った。 ドッと沸いた教室もだが 何より一番に オタク女子の莉子が 「めっちゃ可愛い声じゃん!  何ていうの??」 っと素で そのまんまの気持ちで 茶化すことなく しずくちゃんのことを聞いてきた。 バカにされるのかと 警戒したが そんな心配はジャマなだけだった。 普通に気軽に話せる莉子が ずっと気になっていた。 そしてその莉子が 今  俺の過去の 記憶のつぶやきを聞いていた。 『起きてくださあーーい♡』 莉子の耳元でスマホを連打する。 クスクス 笑い声が漏れる。 どうやら狸寝入りも終わりのようだ。 「てめえ いつから起きてた?」 莉子の肩が揺れる。 「サッサと答えやがれ。 いつから起きてた。」 莉子の頭が資料の山の上から離れた。 心底笑いをこらえながら こっちのスマホを指さして 「それ 止めてもろていいですか?」 と口に手を当てながらお願いしてきた。 その莉子が可愛くて 俺も怒るというより 笑いがとまらねえ。 目が合った。 寝起きな彼女だった クルっとした二重の瞳をぱちぱちさせていた。 莉子がちょっとだけ 涙目だった。 「翔が「チョコは嫌い」って  女子に言ったのを きいちゃったんだよ。  だから  チョコは 嫌いなんだろうなって  もう、 バレンタインに チョコは渡せないって  ずっと思ってた。」 そう言いながら、 自分の隣の椅子においてある トートバックを ガサゴソと探り出した。
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