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 交番から『honeybees』は、すぐ近くだ。  お店のウィンド―近くにも棚があり、品物が展示してある。そのすき間から、中の様子をうかがう。 『しゅん、何て言ったらいい?』  まだ心は決まっていない。先に電話を入れてみようか。  れもんさんの姿は見えない。奥の部屋に居るのだろう。  私は意を決して、入口の木のドアを引いた。  店内は、そう広くはない。体に優しい素材を使った洋服や、生活に豊かさや潤いやユーモアをもたらす小物が並んでいる。それは、れもんさんのお眼鏡にかなった品物だ。  れもんさん自身は、オーガニックコットンや麻布を使った洋服を作る。ゆったりめのワンピースやスカートが多い。  いつも目にしている品揃えの中で、見たことのない作品があった。  金属製の小さな人形だ。5~7cmほどで、よく見ると、ボルトとナットでできている。そこから細い腕や脚が出ていて、それが作品の表情を作っている。 「いらっしゃいませ。それ、かわいいでしょ」  いつの間にか、れもんさんがお店に出てきていた。私は屈めていた背を伸ばす。 「れもんさん、こんにちは。あの……今日は、あの、納品の」 「あら、あなた私の名前を知っているの? 初めての方だと思って。失礼しました」  
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