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え? この店に来るのは初めてではない。それどころか、納品しているのだから、何度この店に来ているかわからない。
「どうしたんですか? 私です。みゆりです」
「みゆりさん?」
れもんさんは私の名前を聞いても、何の反応もない。
「はい、城内みゆりです。樫木町に住んでいます」
れもんさんは眉を寄せて、小首を傾げる。どうもまだピンと来ない様子だ。
どうなっているの? 何をどう説明したら、わかってもらえるの?
「えっと、ここ半年ぐらい、毎月私が作った品物を置いてもらっています。ここのスペースです」
手で示したその場所には、さっき目にした金属製の小さな人形が並んでいる。
私の作品は、全部売切れた?
そんなはずはない。では、どこにあるの?
「あの……この新しい作家さんの作品を置くために、私の作品は撤収されたんですか?」
「新しい作家さん? いいえ、この方の作品は1年以上前から置いてあるわ」
1年以上前から?
『そんなはずはないよね。今日初めて見たんだよ』
なぜ?
なぜ?
『何か悪いことが起こって、私とのことを無かったことにしたいのかな?』
『まさか』
『そうだよね。そんなことをするような、れもんさんではないよね』
「あなたはどんな作品を作っているのかしら。サンプルを見せてもらえる?」
え? サンプル? そこから?
でも、何か私の作品を見せたら、納得してもらえるはず。
私はバッグの中を探してみる。
ああ、どうして今日に限って、自作のバッグで来なかったんだろう。
納品するはずだった作品は、どこかに消えてしまったし、スマホも写真のデータが見られない状態だ。
そしてなぜだかわからないけれど、れもんさんの記憶から私の存在が抜け落ちている。
れもんさんは笑っているが、それはどこか儀礼的だ。いつもの心の底からの笑顔ではない。
私はれもんさんと繋がるものがないか、もう一度バッグの中を引っかき回したが、何も無い。
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