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 私自身も混乱していた。 「あ……すいません。お見せできるものが何もありません」 「そう。それは残念ね」  言葉とは裏腹に、軽い口調だ。気持ちがこもっていないように感じる。  私はこれ以上、お店に居づらくなってきた。 「あの、今日はこれで失礼します」 「はい。うちの店のテイストに合う作品だったら、お願いするわね」  れもんさんの表情から、やっと帰ってくれそうだという、ほっとした気持ちが伝わった。そして釘を刺された。何でもかんでも置いてあげるわけではないのよ、と。  深々とおじぎをして、ドアを閉めた。  本当に何が起こったんだろう。わけがわからない。  バッグから取り出したハンドタオルに、ワンポイントの刺繍がしてあった。私が刺した薄紫のすみれの花束だ。  これだけでも見てもらおうと、もう一度ドアを開ける。 「さっきの女の子帰ったのか? 何かけっこう必死そうだったけど」 「そう。初めは、他の店と勘違いしてるのかと思ったけど、そうじゃないみたいだったし。ちょっと虚言癖でもあるんじゃないかしら。そんないかれてる子、もう一回来てもお断りだわ」 そっとドアを音を立てずに閉めた。 私は得体の知れない人間に思われたのだ。 パリンパリンと割れる音が、心の中に響いた。 れもんさんと築いた信頼関係は、石のように固いものだと思っていたのに。 それは雲母よりも更に脆いものなのだと痛感した。
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