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ビル風にあおられる。
駅に近いオフィス街は高いビルが多い。ここを通ると寒い思いをするから避けていた道だったのに、そんなことに気を回していなかった。心はさっきのれもんさんの言葉に囚われている。
なぜ?
なぜ?
『契約の打ち切りを言い出せなかったから?』
『いくらなんでも、それはないと思う』
お店を経営する人間として、いや社会人としてあり得ない。
でも、れもんさんの言い分が成立するとしたら……。
私はその先を考えることが怖くなった。
電車に乗り、空いている席にどさりと腰を下ろす。
揺れに身を任せながら、ぼうっと視線を漂わせていた。
立っている人、席に座っている人、みんなマスクをしている。
次の駅はターミナル駅なので、どっと人が乗り込んできた。
その人たちもみんな一様にマスクをしている。そう言えば、れもんさんもマスクをしていた。テニスコートで私を注意した女性は、真剣に「マスクをしなさい」と言っていた。感染症と言っていたと思う。
ここしばらく、作品を作るために集中していた。テレビもあまり見ていなかった。私が知らないうちに、何か病気が発生したの?
それにしては、マスクをしている人が多い。予防するために、マスクを着けなさいって言うお知らせでもあったの? そんな重大なニュースを私は見逃していたのかな?
私は今更ながら気になり始め、スマホで検索してみた。けれど、やはり機能しない。壊れてしまったのだろうか。またショップで長時間かかる手続きをしなければならないのかと思うと、気が滅入る。
本当に今日はついていない。
やっぱりかに座は12位なんだと、ため息をついた。
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