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今日は辰典と飲みに来ている。
前に偶然入った新潟の郷土料理の店だ。あれ以来気に入ってしまって、行きつけの店になりつつあった。
「最近、デートしてる?」
「は?」
「は? じゃなくて。翔太くんと出かけたりしてんのって」
「コンビニにはよく行く」
「はぁん?」
隣に座る辰典がうぜー顔をする。
「はーあ。どうせ捺の事だからいっつも家の中でゴロゴロしてんだろ? たまにはどこか連れてってあげろよ」
「別にあいつもどこ行きたいとか言わねーし」
「翔太くんは遠慮してんでしょ。てかそこは捺から誘ってあげるべきじゃない?」
「うるせーなー」
俺はグラスに残っている一口分のビールを喉に流した。カウンター裏の厨房にいる店員におかわりと刺身盛り合わせを注文する。
「実はさー、そんな捺の為にイイモノがあるんだよねー」
と、辰則は自分の鞄の中をガサごそと探し始めた。
「ほい、これやる」
ん?
テーブルに置かれたのは、水族館のチケット?
「今日取引先の人にもらったんだ。俺は一緒に行く相手いないしー。翔太くんと行ってきなよ。平日の遅い時間までやってるらしいよ」
「こんな所行きたいかぁ?」
「翔太くんは行きたいかもよ? 一回誘ってみなって」
「うーん」
平日のサラリーマン二人がスーツ着て行く所なのかよ。
「あのさー、可愛い可愛い翔太くんを自分の家に閉じ込めておきたい気持ちはよく分かるけど、そんなんじゃすぐ飽きられて捨てられちゃうよ? ちゃんと楽しませる努力しなきゃー」
本日二度目の「うるせーなー」
「部屋にいるだけじゃなーんにも、思い出にならないんだからなー!」
こいつ、痛いところ突いてくるな。
まぁ、チケットがあるなら誘うだけ誘ってみるか。そういえば付き合ってからどこにも出かけていなかった。
「はぁ、俺も可愛い恋人ほしいなー」
「お前先週合コン行ったんじゃなかったのか?」
「え、それ聞いちゃう? もー惨敗よ。いいなーって子がいたんだけどさ、イケメンに取られちゃった」
「所詮は顔、か」
「ぴえん」
「まー、また頑張れよ」
俺は追加のビールを飲みながら適当にそう言った。
「あ、合コンといえばさ。乃梨ちゃんも週二で行ってるらしいよ。しかも歳を二十九って四つもサバよんでるって! ウケるよなー」
「なにやってんだあいつは」
「あはは! なんかさー、可愛い翔太くん見てたら羨ましくなったって言ってた」
「はぁー?」
「確かに俺もお前見てると羨ましくなるもん。翔太くん全身から好き好きオーラ出しまくってて可愛いもんなー。もうあの子は存在が天使だよな」
「…………」
「ね、捺さん?」
「…………」
「かわゆい彼氏でいいわね?」
「うっさい!」
「イテ!」
含みのある顔で俺を覗き込んでくる辰典を拳骨で制裁する。
どうやら辰典と乃梨子にはバレているらしい。
翔太が常軌を逸したかわいさだという事が。
これ以上はマズイ気がする。どこの誰だか分からないやつにまでバレはじめてしまったら。
本当に部屋に閉じ込めておかなければならなくなる。
三杯目のビールがまわっている俺は、
真剣にそんな事を考えていた。
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