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この日の帰り道、翔太にメッセージで水族館の話をしてみると嬉しそうな二つ返事が返ってきた。
やっぱり俺と出掛けたかったり──したんだろうか。
ワガママを減らすとかなんとか言っていたから少し無理をさせていたのかもしれない。
俺は家の中で翔太をデロデロに甘やかしてさえいれば満足だから、そういう恋人っぽいイベント事なんかがすっかり抜け落ちていた。
悔しいが今回は辰典に感謝だな。奇跡的に。
次の日早速その水族館に行く事になった。
待ち合わせの時間を決め、現地で合流する約束をした。
俺は時間ぴったりくらいに駅に着いた。
人通りの多い大きな駅前は、帰宅する人達や同じように待ち合わせをしている人で溢れかえっている。
この中から翔太を見つけるのも一苦労だ。と、思っていた時だ。大きな噴水の前にいる翔太を見つけたのはいいが、なにやら女性の集団と会話をしているようだ。
───またか、あいつ。今月何回目だよ。
「あ、捺さん! お疲れ様です」
俺を見つけるなり瞳をキラキラさせて駆け寄ってきた。
「ん、お疲れ。なぁ、さっきのやつら何?」
「え、見てたんですか?」
「見えただけ」
「あ、すいません……」
「お前また逆ナンされてた?」
「えっと、そうかな。はい」
やっぱりか。こいつを一人にしてるとこういう事がよく起こる。最近は特に増えた。
「今度から外歩く時は眼鏡とマスクしろ」
「えー? なんですかそれ。別に大丈夫ですよ断ってますし」
「いつ何があるかわかんねーだろ。危ない事にならないように対策してろって」
「んもー捺さんは過保護すぎですってー」
呆れたように翔太が笑う。
俺が嫌なだけなんだ、本当は。
誰にも知られたくない。
誰にも、取られたくない───
「捺さん?」
黙り込む俺を、翔太の瞳が不思議そうに見つめる。
「行くか」
「はい!」
とにかく今日はこいつを楽しませなければ。
たまには彼氏力でも発揮してみるか。
ここは都会のど真ん中にある水族館にしては内容が充実していた。
トンネル型の水槽やイルカやアザラシのショー。プロジェクションマッピングを取り入れた展示まであった。都会の竜宮城というだけあって、どこも華やかに賑わっていた。
翔太は終始楽しそうな顔を見せていたから、きっと今日はいい思い出になったはずだ。そうだといい。
「今日はありがとうございました。辰典さんにもお礼言っておいてくださいね」
「あいつはいいよ」
「あ、今週の金曜も仕事終わったら捺さんの家行ってもいいですか?」
「あぁ。また遅くなりそうだから先に家にいて」
「分かりました。ご飯どうしますか? 俺なにか作っておきましょうか?」
「……いいよ。お前も疲れてるだろうし。適当に買って帰るわ」
すまん翔太。俺にはまだ、お前が一人で作った料理を食べる彼氏力は備わっていないんだ。
この時の俺はまだ、
いつものように幸せな金曜日が来ると信じていた。
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