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俺は今回の経緯とこれからの事を説明した。
その間ずっと、翔太は自分の事のようにつらそうな顔をして聞いていた。
本当にごめんな。
お前にしてやりたい事たくさんあったのに。
最近家で食べる事が増えたからお前の食器も買いに行きたかった。
あといつも俺のスエットを着せているからちゃんと翔太用の部屋着も買おうと思ってたんだ。
それに、
それに言ってはいなかったけれど、俺の予定では今日から始めるつもりだった。最後までできるようになる為の特訓を。
それなのに───
「捺さん、い、痛いですか?」
ソファにいる俺の足元に座った翔太が、心配そうな顔をする。
「まぁ、それなりに。でも鎮痛剤飲んでるから平気だよ」
と言いつつ、実はめちゃくちゃ痛い。
「俺、なんでもしますからね、捺さん」
その声が震えているように聞こえて、下を向いている翔太の頭を右手でポンポンと優しく撫でた。
「となりおいで」
「……いま、だめ、です」
「いいから。な?」
今の俺は翔太をソファまで引っ張り上げる事ができない。歯がゆいその気持ちを奥に終い込んで、俺の膝の上に置かれた手を掴んでこっちにくいくいと引いて合図する。
下を向いたままの翔太がゆっくり俺の隣に座った。顔が見えなくても大粒の涙がポタポタと服にシミを作っていて、翔太が泣いていると教えてくれる。
「ごめんな」
「な、なつさ……わるく、な」
止まらない涙のせいでひくひくと苦しそうな翔太をそっと俺の肩に寄せた。
「翔太、大丈夫だよ。すぐ治すから」
「うぅ、なつさ……」
翔太の熱い目頭が俺の胸を湿らせる。
「顔、見せて?」
「……だめ」
「ちょっとでいいから」
「いま……ぶさいく、です」
なんだそれ、かわいいな。
「お前の泣き顔なんてもう何回も見てるだろ? 大丈夫だって。な、顔見たい」
俺がそう言うと、おずおずと頭が上げられうるうるの瞳が俺を見つめて、そしてポロっと一滴の涙を落とした。その雫の道が出来ている頬を舌で舐めてやる。
「ん、」
くすぐったそうな声が漏れる。
「翔太、キスしてい?」
俺のその問いに、返事はない。
もう一度確認しようと思った時だ。
俺の唇にふわりと柔らかいものが重なって、翔太からキスされたのだと少し遅れて気がついた。
「捺さん、なんでも言って。俺、毎日だって手伝いに来るからね。一人で頑張らないで」
そのかわいい行動と言葉のせいで俺の理性はぶっ飛んだ。
翔太の頭に手を添えて、一瞬重なっただけのさっきとは違うキスをする。少し涙で湿っている唇の表面を俺のものでもっと濡らして、強引に熱い内側に入り込む。
「ふ、んっ……」
切なげな吐息が隙間から僅かに漏れる。
───もどかしい。
今は何もできない……!
泣いている翔太を両手で抱きしめてやる事も。
トロリととろけるようなその顔にもっと快感を味わせてやる事も。
今の俺は、何もできない。
ただ痛みを我慢したまま、お互いの咥内の温度を確かめ合うだけ───それだけ。
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