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「そうそう、借りてた本返すね。これすごい面白かった」
俺は自分のバッグからマンガを一冊取り出し智くんに渡した。
「あー良かったー! やっぱ吉村さんはこういう話好きだと思ったんですよ俺」
「え、そうなの?」
「はい! リーマンモノとか上司部下のモダモダ系好きですよね?」
「んー、そうなのかな。でも現実味があった方が感情移入しやすいのかも」
「分かります。やっぱり自分もゲイだし結構共感する事多いんですよね」
「うん、そうだね。ちなみに智くんはどういうところに共感するの?」
「最近買ってハマったのは、これです」
と、どこから出してきたのか分からなかったけど、テーブルに一冊の本が置かれた。
帯には異世界転生とか人獣って書いてあるけど……
「これ、共感、したんだ?」
「はい!」
「…………」
どこに? と聞きたいのに、怖くて聞けない。
智くんは一体どこからやってきたのだろう。
「あ、これとかも好きだと思いますよ、しょう……」
あ、まただ。
「智くん、呼びづらかったら名前でも全然いいからね」
「え、でも……」
「いいよいいよ。智くんは中澤の後輩だけど、俺とはただの友達なんだからさ。気にしないで」
「じゃぁ遠慮なく。翔太さんって、呼んでもいいですか?」
「もちろん」
「や、やった! 妄想が現実に!」
あぁ、うん。何か妄想してたよね。
さっき咄嗟に下の名前で呼んでたもんね。
「ち、ちなみになんですけどー……」
「うん?」
智くんは少し言いづらそうな表情をしている。
「彼氏さんとはお互いなんて呼び合ってるんですか?」
「え?」
「ずっと気になってて、すいません」
気にしてたのかそんな事。
「名前は普通に翔太って呼ばれてる。えっと、俺は苗字で、かな」
そう答えても納得いかないのか、智くんは欲しそうな顔して待っている。
「な、捺だよ。俺は捺さんって呼んでる」
「なつさん……! いい! エロい!」
「なんで!!?」
思わず大きな声を出してしまった。
「翔太さんは下の名前で呼ばないんですか?」
「え、うん。それは、いま……」
毎日自主練中で。
「でもさん呼びっていいですよねー。萌えるし燃えますよね!」
「うん……?」
「あ、そうだ。俺おすすめのローションがあって。今日渡そうと思ってたんですよ」
────へ?
「これ、一回使い切りタイプで持ち運びに便利だし、肌にも優しいから結構いいですよ」
俺の目の前に四角い小さな包みが置かれた。
初めて見るそれを、どうしていいか分からない。
「あ、やっぱ彼氏さんが用意してるやつの方がいいですかね?」
「あー、えっと……その、実は、まだシた事なくて」
「あれ? そうなんでしたっけ? すいません、俺てっきり……」
「いや、大丈夫」
「あっ、そうですよね! 骨折してたからできないですよね!」
身も蓋もない言い方やめて……
「じゃぁこれは今後のもしもに備えて財布にでも入れておいて下さい」
防犯グッズみたいな言い方やめて……
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