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「お前もなにか飲むか? チューハイもあるけど」
「あーそうですね」
なんか緊張してきちゃったし、少しくらい飲んでおいた方がいいかも。
「俺もビール飲みます!」
「んじゃ、カンパーイ」
捺さんは手慣れた手つきで、冷蔵庫から缶ビールを取り出し片手でそれを開けて俺に渡した。あまりにスピーディな動きでついていけない。
「か、乾杯!」
俺達はキッチンで立ったままお互いの缶を合わせた。それからリビングへ移動しようとした時、俺が足元に置いていたバッグを捺さんが持ち上げた。
「ん? 重いな。またマンガか?」
「あー、はい。今日はたくさん借りちゃって」
「ふーん。勉強熱心だな」
「だから違いますって」
本当はめちゃくちゃ勉強になってるけど。
捺さんはその重いバッグをソファ脇まで運んでくれた。ビールをテーブルに置いて、二人並んで座る。
「お前さ、そいつと仲良すぎじゃねーか?」
「え?」
「腐男子なのは別にいいけど、そもそもゲイなんだろそいつ」
「そう、ですけど。でも本当にただの友達で」
「むこうはそう思ってないかもしれないだろ。そんなやつの家に一人で行くとかさ、警戒心なさすぎないか?」
なんでだろう。
いきなり捺さんが説教モードになってきた。
「警戒って……そんな事言ったら俺、ゲイの友達なんて出来ないじゃないですか」
「そもそも必要ある?」
え、何……
なんかすごく冷たい。
「お、俺だって色々相談できるような相手がほしいですよ。今までは誰かに話したりってできなかったから。だから俺は嬉しいのに、」
「……まぁ、話すだけならいいんだけどさ」
俺は捺さんの隣で黙っていた。
不機嫌で冷たい捺さんの声が俺を苦しくさせる。
「あー、悪い。ごめん、今の無し」
その言葉と同時に捺さんの大きな手の平が俺の頭を包んだ。
「なんて言うか、心配なんだよ。ごめんな」
それでも俺が俯いたまま黙っていると、肩を寄せられそっと抱きしめられた。
あぁ、捺さんの匂いだ。ほっとする。
俺も腕を回して同じようにぎゅっとした。
「心配はしないで下さい。絶対大丈夫ですから」
「絶対はねーだろ」
「ふふ、大丈夫です。だって二人共ネ……」
────あ。
「ん? なに?」
「あ、いえ。なんでもない、です」
捺さんに抱きついたまま、俺は顔が上げられなかった。
「なぁ、なんて言おうとした?」
「…………」
回していた腕が解かれ、顔を覗き込まれる。
「ねって、なに?」
どうしよう。
言っても大丈夫かな。
でも、いやーな予感がするんだよなぁ。
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