第24話 祝賀パーティー

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第24話 祝賀パーティー

祝賀パーティーの日は快晴だった。 朗久(あきひさ)さんは絹山百貨店で新しく作ったスーツを着て、とても似合っていた。 そして、いつもよりもフォーマルな服装をした重役の人達は招待客の目を惹き、大勢の人に囲まれて、くだけた口調も今日は一切なく、真面目な会話をしているのが、なんとなく可笑しかった。 招待したお客様達は明るい庭での立食を楽しみ、和やかな雰囲気だった。 そう。 ホームパーティーの場所は私がよく知る場所だった。 私が生まれ育った家。 絹山の家だった。 連れてこられた時は驚いた。 この家にはお母様と麗奈麗奈(れいな)が住んでいたはずだから。 「いつの間にいなくなったの」 家の中はリフォームされ、新しい家具、新しい車が置かれて、家政婦さんと運転手さんがすでにいて、パーティーは始まり、色々と聞きたいことがあったのに朗久さんの周りには仕事関係者がいて、近寄れなかった。 「新事業、おめでとうございます」 「好調ですね」 「絹山百貨店の伝統を守りつつ、収益を上げているそうじゃないですか」 朗久さんは髪をあげ、私がプレゼントしたスーツを見事に着こなしていた。 まるで、俳優さんみたい……。 「ご協力あってのことです」 絹山百貨店のお世話になっている方々もお呼びしていたため、私もお礼を言って回るのに忙しく、気づいたら、もうパーティーの時間も終わりに近付いていた。 招待客へのお土産の数を確認しようとすると、庭先がにわかに騒がしくなった。 「この悪魔っ!」 麗奈の声だった―――慌てて声のする方に行くと、麗奈と朗久さんが敵同士のように対峙していた。 見るからに麗奈が圧倒的に不利で、不敵に笑う朗久さんの目は鋭く、麗奈はすでに怖気づき、じりりと後ろに下がった。 「悪魔だなんてよく言えたものだ。時任社長にひどい言いがかりだ」 「傾きかけた絹山百貨店を立て直したというのに」 「よくここに来れたものだ」 絹山百貨店の関係者達は麗奈に対する態度は冷然たるものだった。 取引を中止させられたり、安くするよう要求されたり、社員達は給料を下げられ、ボーナスも減らされたのが原因で、麗奈が生活に困ろうが、苦しもうが、同情する人は誰もいなかった。 「母親にも送ったが、こなかったな。まだ恥というものを知っているらしい」 「う、うるさいわね!私から家まで奪って!」 「売りに出された家を買ってやっただけだ。お金に困っていたからな」 お金に困っていた? 「あんたが仕向けたんでしょうが!」 「そんな都合よくできるわけないだろう?お前とお前の母親が贅沢をしなければ、暮らせていけたんじゃないか?」 麗奈は押し黙った。 つまり、お母様と麗奈は父が生きていた頃と同じような暮らしをしていて、お金が足りなくなって、家を売りとばしたということ? 「贅沢なんかじゃないわ。大切な近所付き合いよ!ここに住むのがステイタスだったのに!」 「麗奈。ここに絹山が家を持っているのは見栄だけではないのよ」 「え?」 「絹山百貨店を支えて下さるお得意様とのお付き合いや古くからの取引先の家があるためにここに家を構えているの。お金持ちだから、というわけではないわ」 確かにこの地域に住む奥様達の生活は派手で、一般家庭レベルの収入では付き合ってはいけないのは事実。 見栄の張り合いは好きではないけど、絹山のお客様も多くいらっしゃる。 良い物を知っている奥様達は絹山百貨店の外商のお得意様だった。 そして、その奥様達に買って頂くことで、絹山の高品質な商品を支えてもらっていることも十分に理解している。 絹山家が理由もなく、ただこの地域に家を構えているわけではない。 だから、絹山百貨店を持たない絹山家ならば、ここに住む必要はないのだ。 「すべては絹山のお店のためよ。家族のためではないわ」 「なによっ!いつも優等生面して!」 私に殴りかかろうとした瞬間、誰よりも早く麗奈を止めた人がいた。 「麗奈!」 息を切らせ、駆けつけた聡さんが麗奈の腕を掴んだ。 「やっぱりここに来ていたのか」 手にはぐしゃぐしゃに丸められた招待状があった。 「悪かったね。さあ、麗奈、帰ろう」 泣きそうな顔で麗奈は聡さんを見た。 「なんなの?私の事なんか、嫌いでしょ?よく迎えになんかきたわね」 「嫌いじゃないよ。我儘で馬鹿な女が好きだって知っているだろう?」 麗奈は泣きそうな顔で聡さんを見ていた。 聡さんは以前より、しっかりした顔つきになり、こちらに向かって深々と頭を下げた。 「許してもらえるとは思わないけれど、本当に悪かった。麗奈は今後、近寄らないようにさせるから、見逃してやってくれ」 聡さんは麗奈の頭をおさえつけた。 「ほら、麗奈。最後のチャンスだよ。ちゃんと謝って終わりにしよう」 麗奈は唇を噛んだ。 「―――ごめんなさい」 朗久さんは聡さんにUSBを投げた。 「これをやる。二度と、近寄るな。さっさと帰れよ」 「ありがとう」 聡さんは麗奈の肩を抱き、家から出て行った。 麗奈はうつむき、一度も振り返らなかった。
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