第1話 妹は奪う

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第1話 妹は奪う

父が亡くなった―――― 運命の歯車というのは一つ狂うと全てが滅茶苦茶になってしまうのだと、わかった。 葬儀もお通夜も終えた頃、父に借金があると知った。 父の死によってもたらされたのは混乱だった。 「父に借金があったなんて」 「莉世(りせ)お姉様、どういうこと?秘書だったのにお父様の借金も把握できていなかったのかしら?」 妹の麗奈(れいな)が私を責めるように言った。 その通りだけど、まさか父が私に隠れて借金をしていたとは思いもしなかった。 それも遊ぶお金を手に入れるためだなんて―――どうしよう。 母も妹も私に責任があるの一点張りだった。 誰も助けてはくれない。 婚約者の(さとる)さんに相談しても、冷たく突き放された。 「絹山(きぬやま)の家が大事に守ってきた百貨店をまさか、売りに出すつもりじゃないだろうね」 古くは呉服商を営み、現在は百貨店を何店舗も構えている私の家は外から見れば、お金持ちなのだと思うけど、内情はギリギリ赤字にはならずに経営し、なんとか体裁を保っていると言うのが本当のところだった。 「でも、お父様が死んだら、私だけで経営は難しいわ」 絹山の旦那様という信用があったから、銀行もお金を貸してくれていたし、古いつながりのあるお金持ちの知り合いも多かったおかげで、外商の方もうまくいっていた。 お通夜も葬儀も終え、母と妹、私の三人はリビングに集まった。 今後を話し合いましょう、と私が提案したのだけど、二人の目は身内とは思えないくらいに冷ややかだった。 「あのね、二人とも。お父様の借金を返すために家と土地を売りに出そうと思うの。そしたら、なんとか返せそうだから―――」 「この家を売るなんて、冗談じゃないわ」 母は私を睨みつけた。 「ここは歴史あるお金持ちしか住めない町なのよ?家を売って、追い出されたから、いい笑いものだわ」 はあ、と母は溜息を吐いた。 「莉世に責任があるのだから、あなたにどうにかしてもらうわよ」 「私に?」 「そう。あなたの婚約者の聡さんだけど、とても優秀なのよ。いい大学も出ているし、次男で顔もいいし、人望もあるの。あなたが仕事ばかりして、結婚せずに30歳になってしまって聡さんに申し訳ないと思わないの?」 「お父様だけじゃ、経営が不安で仕方なかったから……」 「そんなこと言って、お姉様は結局、お父様の借金を管理できてなかったじゃない」 それは私のミスだ―――俯くと、麗奈は勝ち誇ったかのように言った。 「若い方がいいんですって」 「えっ…?」 「聡さん、お姉様より若い私と結婚したいって言ってこられたの」 「嘘!」 驚いて母と妹の顔を見た。 「麗奈、言い方があるでしょう?聡さんご本人から、そう言われてしまってはね。お父様がいなくなった今ではお断りできないの。わかるわね?」 聡さんは優しくて、私が仕事をしていても構わないと言ってくれていた。 それなのに。 「大丈夫よ。莉世、あなたは麗奈の婚約者と結婚するんだから」 母が何を言ったのか、一瞬、わからなかった。 「どういうこと?」 「私の婚約者の時任(ときとう)朗久(あきひさ)様に借金の相談をしたら、全部、肩代わりしてくれるっていうの。その代り、お姉様と結婚したいんですって」 「待って!麗奈と結婚したいと言われたのではないの?」 「誰でもいいみたいよ。私じゃなくても構わないって、秘書の方がおっしゃっていたし」 そんな―――誰でもいいなんて。 「だいたい、時任様はまだ25歳かそこらじゃなかった?」 しかも、変わり者と有名で、この町では時任様が一代で財をなし、好き放題しているため、成金と呼んで馬鹿にする方もいる。 「そうよ」 「お金持ちで若くて、結婚相手なんてたくさんいらっしゃるでしょう?私じゃなくても……」 「結婚したいって言っているんだから、ちょうどよかったじゃない。お姉様もいい歳だし、嫁げば」 「百貨店の経営はどうするの?」 「聡さんと私で助けあって、経営するから安心して。優秀な聡さんがうまくやってくださるわ」 本来なら、私が麗奈の場所にいたはずだった。 大切にしてきた仕事も婚約者も妹は全て奪っていった。 こんなにも容易く―――
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