第14話 捨てる者 拾う者 (麗奈 視点)

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第14話 捨てる者 拾う者 (麗奈 視点)

待ちに待った日曜日、私の噂好きでお喋りな友達にランチをしましょ?と声をかければ、みんな喜んで誘いに乗ってきた。 私の友人は働いていないお嬢様ばかりだから、毎日が退屈なのよね。 そんな彼女達に刺激的な話題を提供してあげる。 浮浪者と肩を並べていたなんて広まれば、当然、敬遠する方も出てくるわ。 どれだけ評判が落ちるか、楽しみだわ。 お姉様はのんきな顔で食事をしている。 この後、何が起きるかも知らないで。 有名なフレンチレストランで食事をして、あえて私は場所を変えて、お茶をするためにデザートはださないように頼んだ。 これで、あの浮浪者と会っていた場所へ誘い出せる。 私の計画は完璧よ。 「莉世(りせ)様、結婚生活はいかがですか?」 「時任(ときとう)様は変わった方だとお聞きしましたわ」 「どんな方ですの?」 お喋り好きで噂好きな友人達は姉の結婚生活に興味津々だった。 それも当然、歴史と伝統ある絹山(きぬやま)の娘がまさか、成金の男に嫁ぐなんてありえないから。 陰で『お金目当て』と言われていることを知らないのかしら。 なんにも知らないお姉様は落ち着いた様子で質問を聞いていた。 「優しい方です」 なにが優しい方よ。 愛人がいるんでしょう? よく顔色一つ変えずにいれるわ。 嘘つきね。 時計をみると、この間と同じ時間になっていた。 「みなさん、そろそろ場所を変えましょうか」 これからがメインディッシュよ。 ブランド店が並ぶ、通りは買い物にもちょうどよく、おしゃべりをしながら、ゆっくり移動する。 ボサボサ頭の男がジャージ姿で地下に向かおうとしたのが、ちらりと見えた。 「地下の喫茶店にまいりましょ?」 私の言葉に誰も疑わず、ついてくる。 この間より服装はひどく、手には日本酒の一升瓶を持って歩いている。 なんてみっともないの。 立ちどまり、浮浪者に話しかけた瞬間を狙った。 「あら。時任様じゃありませんこと?」 浮浪者と時任様が振り返り、友人達は驚いて固まっていた。 さあ、言い訳ができるものならしてみなさいよ。 「莉世もここに用事だったのか」 「ええ」 「奇遇だな」 「本当にそうですね」 はあ?何、普通に話してるの? 友人達は信じられないという顔で姉を見ていた。 そうよ、それが当り前の反応よ。 「あ、あの莉世様、時任様でいらっしゃいますの?」 「ええ」 「いつもあのような服装を?」 「そうですね、職場に行く時も。もう見慣れました」 にっこりとお姉様は微笑んだ。 よく笑えるわね。 手には一升瓶、隣には浮浪者。 お嬢様達には刺激が強かったのか、口に手をあてて。驚いていた。 浮浪者のほうが常識があるのか、申し訳なさそうにしていた。 「もしかして、奥様でいらっしゃいますか」 「あ、はい」 「謝らなければならないことがありまして。その……お二人の結婚式当日にわしが猫を拾って困っている所を助けていただいたんです。大切な結婚式に遅刻されたとか……」 「三匹いたんだがな、一匹が衰弱していたんだ。それで、この近くの動物病院に連れて行って診てもらった」 「そうだったんですか。助かったんですか?」 「もちろん。今は三匹とも飼い主が見つかって、幸せに暮らしている。だから、今日は猫を飼うのに借りていたマンションを引き払いにきたんだ。今、住んでいるところはペット不可だからな」 時任様の話に友人達は感心したように頷いていた。 絶対に嘘よ!!! 「もしかして、ひざ掛けをプレゼントされたのは」 「ああ、よく知ってるな。猫に買ってやった。しばらく、世話をしていたら、猫たちがどうしているかと思って気になったからな……」 「旦那はお優しいですからねぇ。いや。今日もわざわざ、こんな自分に挨拶にきて、酒まで土産に持ってきてくれて。信用できるいい方ですよ。どうか、結婚式のことは許してください。悪いのはこっちで、この方は本当に気のいい方ですよ」 「怒ってなんか、いません。むしろ、子猫を見捨てない朗久さんで、よかったです」 お姉様は微笑んでいた。 照れくさそうに時任様は笑い、友人達はにこやかに拍手をしていた。 なんなの!? 「ちょうどいい。莉世。一緒に帰るか?」 「ええ、そうですね。ごめんなさいね。皆さん、私はこれで失礼します」 お姉様は時任様の手をとり、にこやかに帰って行った。 「素敵なお話でしたわ」 「感動しましたね」 「莉世様のお相手がお優しい方でよかったですわね」 全然よくないわ。 なんなの、あいつ! いらいらと爪を噛んだ。 本当に面白くない! 「帰るわっ!」 「えっ!?麗奈様?」 友人達を残し、その場を後にした。 なんなのよっ! 地下から出て、運転手を呼ぼうと思ったけれど、イライラして、このまま家に帰りたくはなかった。 絹山の百貨店にでも寄ろうと思ったその時―――(さとる)さんがいた。 私へのプレゼントでも買おうとしているのかしら? 声をかけようと店に入りかけて、足を止めた。 女の人と二人でブランド店で買い物中だった。 ―――どういうこと。 しばらく、理解ができず、自分の婚約者が楽しそうに買い物をする姿を眺めていた。
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