第2話 妹の婚約者との結婚

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第2話 妹の婚約者との結婚

妹の婚約者とは妹の婚約が決まった時に家族でお食事会をして以来、初めて見る。 正直、どんな人だったか、ぼんやりとしか覚えていない。 父が麗奈(れいな)の婚約者を決めた時は近所の方や古いお付き合いをしていた方からは散々、言われた。 『お金欲しさに娘を売った』だとか、『あんな成金男をよく婚約者にしたものだ』だとか。 父は自分に経営センスがなかったため、一代で財を成した時任(ときとう)様に憧れを抱いていたのかもしれない。 今となってはなぜ、父が麗奈にその婚約者をあてがったのかはわからない。 そして、私がその妹の婚約者と結婚することになるなんて、父は思いもしなかっただろう。 しかも、婚姻届けを事務的に持ってきたのは秘書で本人ではなかった。 「ここに名前をお願いします」 「はい……」 婚姻届けに記入を促され、書くしかなかった。 結婚しますと返事をすると、約束通り父の借金をすべて肩代わりをしてくれた。 おかげで母と妹は父が生きていた頃と変わらない同じ生活をしていた。 それに比べ、私は今までの仕事を奪われ、婚約者は麗奈を選び、顔も思い出せない相手と結婚した。 せめて父が生きていたら、なんとかなったかもしれないと思うと、涙がこぼれそうになった。 「ここが新居となるマンションです」 目の前にカードキーと住所が置かれた。 「朗久(あきひさ)様は基本的に自由な方ですが、悪い方ではありません。まあ、人によっては悪いと言えば、悪いと言われるかもしれませんが……」 はあ、と秘書は溜息を吐いた。 秘書にそんな風に言われる人っていったい……。 「結婚して落ち着いてくれたら、いいのですが」 社長なのにまるで放蕩息子(ほうとうむすこ)を心配するような口ぶりだった。 「記入はお済ですね。ありがとうございます」 まるで、契約書を手に入れたような口ぶりで秘書は判子を押した婚姻届けを受け取り、満足そうにうなずいた。 契約書と何ら変わりはないかもしれない。 「それでは、失礼します」 「はい」 秘書が帰って行くと、麗奈が見計らったかのように自分の部屋から出てきた。 「莉世(りせ)お姉様に対して愛情のかけらもないわね。可哀想」 聞いていたのか、麗奈は笑いながら言った。 「麗奈は婚約してから会ったりしてたの?」 「会うわけないでしょ。成金なんて、好きじゃないもの」 「そうなの…」 「それに女遊びもするし、噂じゃヤクザとも仲がいいっていうのよ?冗談じゃないわ」 吐き捨てるように麗奈は言った。 「汚い服をいつも着てるっていうし、常識もないんですって。常識がないのはこれでわかったわよね。秘書に婚姻届けを持ってこさせるとか。ありえないわ」 そんな相手と私を結婚させてたくせに麗奈は平気な顔をしていた。 むしろ、楽しそうにしている。 「服に頓着(とんちゃく)しない方なら、お姉様とお似合いじゃない?」 「どういう意味?」 「地味な服ばかり着てるから」 「そんなことを言うのは麗奈くらいよ」 「ダサいのよ」 白のブラウスと紺のスカート、ジャケット、すべて絹山(きぬやま)の百貨店で購入したものだった。 それをダサいと言うなんて。 「それより見て。これ」 麗奈の指輪には婚約指輪があった。 (さとる)さんとの――― 「聡さんが買ってくれたの。可愛いでしょ?」 「え…ええ」 私には指輪はおろか、なにも買ってくれたことない。 「とっても似合ってるって言ってくれたわ」 「そう…」 麗奈は私が傷つき、目を伏せるのを勝ち誇った顔で見ていた。 まるで、私が苦しむのを喜んでいるみたいだった。 「聡さんとの結婚式にはきてね?盛大な披露宴をやる予定だから」 麗奈は結婚雑誌を手ににっこりと私に微笑んだのだった。
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