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むかしむかし、あるところに年老いた樵の師匠とその弟子が住んでいました。
ここでは本人たちの名誉のため名前は伏せておきます。
彼らは年中無休で山へ入っては木を切り薪を作って生計を立てて暮らしていました。
それはある冬の日のことでした。吹雪のなかで帰れなくなったふたりは山小屋で一晩寒さをしのぐことにしました。
吹雪のなか山に入るなど正気の沙汰ではありませんので現代人の皆さんは決して真似しないようお願い致します。
職業がら薪の手持ちだけは事欠かないふたりは山小屋で保存食を分け合って暖を取り、良い雰囲気になった瞬間もありましたが特になにごともなく眠りにつきました。
夜も更けて丑三つ時のころでしょうか。異様な冷気に弟子は目を覚ましました。
囲炉裏の火の熱は感じているにもかかわらず雪が吹き付けるような冷気を感じるのです。
戸締りは万全、ふたりだけの山小屋だったはずです。
弟子が目を開くとそこには恐ろしい目をした白づくめで長い黒髪の美女が立っていました。
内側からしっかり鍵をかけておいた扉は開け放たれて吹雪が吹き込んできています。
これでは囲炉裏の熱も焼け石に水というもの。山小屋の中は完全に冷え切ってしまっていました。
弟子は目を覚ましたものの、歳のせいでしょうか、隣で眠っている老人は目を覚ます気配がありません。
女は老人にその美しい顔を寄せるとそっと白い息を吹きかけました。
するとどうでしょう。老人の顔色はスッと青く、瞬く間に白くなり、その呼吸を止めてしまったのです。
え?死んだ?マジで?
次に女は困惑する弟子に覆いかぶさりその美しい顔を寄せてきました。黒瑪瑙のような美しい瞳がじっと彼を見つめます。
弟子は思いました。あ、これは死んだ。と。
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