天を渡る河の端から

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 友人の恋人に会うのは好きじゃない。  何だか変に気を遣うことになるし、そもそも何を話していいのかが解らない。気が合うのは友人であって、別にその恋人と気が合うわけでも何でもない。もしかしたら自慢したくて連れてくるのかもしれないが、正直なところ友人の恋人がどんな人間だろうがあまり興味はない。誰も得しない空気感が流れる事は明白なのに、にも関わらず妙に会わせたがる奴は多い。  ナスオもその1人なのかもしれないし、この場合は少し違ったのかもしれない。  久々に2人でパチンコでも行こうと、駅前の喫茶店で待ち合わせた土曜日。学生や中年夫婦の笑い声が店内に薄く響く中、お互いの近況を話し終えた頃合いでナスオがひっそりと話し出す。 「最近、彼女が冷たいんだ」  毛ほどの興味もなかったが、声のトーンがオバチャン達の3メートル程下をくぐっていたので、相槌くらいは打ってあげようと思う。 「そうか、何かしたのか?」 「いや、何もしてない。気がついたら冷たかったんだ」  まぁそんなに簡単に理由が解れば世の男どもの8割強は常に幸せな気分でいられるのだろうと思う。でもそのパターンはもう末期な気がしないでもない。 「じゃあ、残念だったな、としか俺には言えない。残念だったな」  冷え始めたコーヒーを啜りながらそう返す。そろそろパチンコに行きたい。 「いや冷てぇな。ちょっと助けてくれよ」 「助けるって、どうやって?」  中々無茶を言い出した。 「今度連れてくるからさ、お前の意見も聞かせてほしいんだ、頼むよ」  何が悲しくて冷えきった男女の仲介をしなければならないのだろう。心底嫌だし、面倒臭い。 「何とかしたいんだよ。本気なんだよ俺。面倒かもしれないけどさ、誰かが何か意見をくれれば少し変わるかもしれないし、頼むよ」  土下座も辞さないとばかりにナスオは頭を下げる。面倒だが、友人にそう頼まれると断りづらいものがある。 「わかったよ、会うだけだぞ。でも何ともならなくても文句は言うなよ」 「ありがとう、助かる。この店は俺が奢るよ」 であれば、せめてケーキセットくらいは注文しておくべきだったと思った。  翌週の土曜日、午後1時。この店に彼女を連れてくると言う。  その日は2人とも笑えない程パチンコ屋に集金されたので、そのまま黙って家に帰った。
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