タピオカミルクティー

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タピオカミルクティー

「いい加減泣き止めよ吉沢〜」 「ちょ……まじ……うるさいっ……」    机上に突っ伏して泣いている吉沢に池上は心底呆れている。吉沢の手にはスマホが握られていた。 「また次があるって〜」 「……お前に……オエッ……お前に……! 何がわかるんだよ……!」 「めんどくせぇなコイツ」  腕の中に顔を隠している吉沢の声はくぐもっている。 「今回は自信あったんだよ〜……」 「どんな内容なんだよ」 「……道端に落ちてたアイスの当たり棒を拾ったケチな男がひょんなことから女装喫茶で無双するの、んで、殺し屋に狙われるんだけど転生して異世界でも無双して、戻ってきて今度は現世で無双して最後に金持ちの女と付き合う話」 「展開多すぎて疲れるわ! はぁ……新人漫画家が陥りやすいドツボに嵌りまくってんじゃねーよ」 「うるせぇ! まだ新人ですらねーんだよ……!」  それだけ言うために顔を上げた吉沢は再び机上に突っ伏した。  放課後、携帯から新人賞の結果を知った吉沢はさっきからずっと塞ぎ込んでいる。   「……ごめん」 「なになにぃ〜、ま〜だ泣いてたのん、吉沢ちゃん」 「ああ村上、おかえり。どこ行ってたんだよ」 「う〜んちょっとね……」  財布だけ提げて校外に出かけていた村上が帰ってきた。手元背中に回して隠している。 「はい、じゃ〜ん! 辛い時はやっぱ甘いものでしょ」  村上の手にはタピオカミルクティーがあった。容器の中で黒い粒つぶが揺れている。 「おお! よかったな吉沢。ほら元気出せ!」 「え……でも……」  村上から差し出されたタピオカミルクティーを持った吉沢。何か言いたげに戸惑う口元は中々ストローを啜ろうとしない。 「だ〜いじょ〜うぶ! 私のおごりだから」 「まじ! いただきまっす!」 「お前、ケチすぎんだろ……」  人が変わったようにタピオカミルクティーを啜る吉沢に村上は蔑視の目を向けている。 「……クゥ〜、甘さが五臓六腑に染み渡るぜ〜!」 「ふふ、よかった。元気出してくれて。……でも知らなかったな、吉沢ちゃんが漫画描いてたなんて」 「いや〜、賞金欲しさで始めた漫画だったけど思いのほかハマっちゃってさ〜」 「謝れ私に、お前を慰めていた私に」 「でも今回で漫画って……作家って凄いって思ったよ。参考に本棚の漫画読んでたら……いや〜、読み方違って見えるよあれ」 「へー、そういうもんなのか」 「そりゃあプロの漫画家は凄いと思うけどさ。吉沢ちゃんだって最後まで自分の漫画を描き切ったの凄いと思うよ〜わたし」 「へへ、ありがとう」  吉沢はタピオカミルクティーを啜って口内に入ってきた黒糖のタピオカを噛みしめる。 「……大御所作家ってさ、タピオカミルクティーで例えるならミルクティーなんだよね」 「は?」 「え? なんて」  吉沢の突飛な発言に二人は聞き返す。 「だからさ、私はタピオカミルクティーで言えばタピオカなのよ。単体だけならただの異物なのよ。異端なのね」 「『だからさ』の意味がわからん」 「え〜、でもさ。最初はなんだこれって思われても今はこんなに世間に浸透されてるわけじゃない。むしろ〜、タピオカを知らないみんなのことを異端扱いしてる世間になりつつあるじゃない?」 「村上理解早くない?」 「なるほど、タピオカがなかったらただのミルクティーだと」 「なるほどじゃねーよ」 「うん……フッ……そうだよ〜」 「笑ったよね。今、村上笑ったよね」 「でも異質は良質あってこそ輝くもんじゃない。ミルクティーは単体でも美味しいわけでしょ。所詮、タピオカはミルクティーの良さを引き出してるだけなんだよな……」  項垂れた吉沢は残りわずかになったタピオカミルクティーを哀しげに見つめている。 「タピオカにそこまで情緒引っ張られるもんかね?」 「……そんなことないよ!」 「ーー村上!」 「王道しかなかったら……ミルクティーしかない世界なんてそれこそ不気味だよ。邪道のおかげで救われる……タピオカのおかげで救われ人がいるの!」 「村上……!」 「いやいないだろ〜。……ないほうが好きだけどね、私は」 「グスッ……ありがとう村上……私、もう一回頑張ってみるよ……!」 「フッ……うん……クフッ……その意気!」 「お前面白がってるよね」
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