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気配に気づいたのか、桧山がゆっくりと振り返った。
「桐生さん」
「桧山、寒くないの?風結構強いけど」
「平気です」
と、なびく髪を片手で押さえながら答えている。
「で、話って?」
大方、予想はついていた。ここ数ヶ月の視線の変化や、俺と話をする時の、にこにこと嬉しそうでいて少し恥ずかしそうな態度。
ゴクリ。息を呑む音が聞こえた。桧山の目が真っ直ぐに俺を捉える。
「私、桐生さんが好きです」
「俺と……付き合いたい?」
確かめるように視線を向けると、頷きが返された。
「気持ちはありがたいけど、桧山、傷つくと思うよ?分かるよな?俺の女遊びの悪さ」
「いいんです。大勢の中の一人でも」
「悪いことは言わない。止めた方がいい」
見るからに純粋な子に、切ない付き合いをさせるわけにはいかない。否、させてはいけない。そう思った。
正直な所、想いに応えてやれないのは酷ではある。
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