失恋させた日

5/5
前へ
/84ページ
次へ
「話戻すけど、織季ちゃんどうするんだよ?あんないい子振るなんて」 「どうするったって、仕事で絡むことあるし今まで通り接するしかないだろ」 「基は今まで通りにできるかもしれないけどさ、振って泣かせてキスした相手だよ?」 「……ニ回も言うなよ」 「だって事実だろ。織季ちゃんはたぶん今まで通りの態度は厳しいんじゃねえの?」 それには答えずに、ジョッキに僅かに残していたビールを流し込んだ。 「悪い、煙草吸ってくる」 「ここで吸えば?」 「いや、外の空気吸いたいから」 「あ、そ。ごゆっくり」 テーブルに片手をついてから立ち上がり、カラカラと扉を開けた。 店先の暖簾から少し離れた場所に立って、ライターを灯した。少し風があるせいか、火が流されてゆらりと揺らめく。片手を翳して、風を避けて着火した。 フーッと紫煙を燻らせながら、通りの往来に何気無く目線を移す。 待ち合わせをしていたのか、手を振りながら駆けていく女性が目に入った。桧山よりニ、三歳上くらいに見えた。駆け寄った先にいるのは彼氏だろうか。 その光景を眺めてる内に、煙は儚くも夜の風に溶けて消えていった。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

407人が本棚に入れています
本棚に追加