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失恋させた日
「あ、桐生さん」
「ん?」
「あの、仕事終わったら屋上に来て貰えませんか?」
昼休憩中、廊下ですれ違った際に呼び止められ、キョロキョロと周りを確認すると、こそっと耳打ちをされた。
「あー、うん。いいけど……」
「すぐ済みますから。定時過ぎたらいるようにするので」
「待ってますね」とペコリと頭を下げて、パタパタと走って行ってしまった。
桧山織季。専門学校を卒業して、今年新卒で入社した子だ。愛想が良くて、くりっとした黒目がちな瞳が可愛らしい、いい子。
飲み込みも早い。周りは一様に言っていた。
俺もそう評価する一人だ。
終業後、屋上へと続く階段を一段一段上っていく。
重い鉄製のドアを開けると、フェンスの金網に指を軽く引っ掛けて景色をぼんやり眺めている姿が目に入った。
肩まである髪が、ビル風に吹かれてなびいている。いつも結んでいる髪は、ほどいたらしい。
焦げ茶色の髪色がオレンジがかって少し明るく見えるのは、夕焼けのせいだ。
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