潜入

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 七時頃に行っても亜季は居なかった。  座って川の方を見つめた。水面に夜空が写ていた。  今日、未確認彗星が地球に最接近するそうだ。この彗星は奇妙な性質を持っており、赤外線、電磁波望遠鏡には観測されなかったそうだ。  ステルス彗星と呼ばれ今夜、美しい尾を引いて夜空を彩る。 「やあ! 元気かい! 素晴らしい宵を過ごしましょう!」  亜季は、 『やば……怒ってますねぇ……煽るか……』  着座して、 「さて、本題に入りましょう。思考転写。」 「まず、そっちの話を聞かせて欲しい。」  私は威圧を含めた。 「しょうがないなぁ。特別サービスだよ。無償で情報を与えるのは。」 『……感謝しろよ、苦悩を知らない甘ちゃん』 「私はね……人格移しの末裔なんだよ。地球外物質に選ばれなかった哀れな末裔だよ。」 『……ここを信じてくれなきゃ話が進まないが?』 「嘘だな。」  私は亜季の表情の機微を捕らえていた。 「それはまたどうして?」 「嘘つきの顔をしているから。」  亜季は煽るように笑った。 「まさか直感とか言わないよね?」 「そんな訳ないでしょ。私には思考転写がある。人が心の声と口にする言葉で乖離した場合、それぞれ特有の反応を見せるもの……」 『それだけかな?……』 「思考転写があるかぎり私相手に心理戦で勝てるはずはない。それでも挑んできた。」 「心理戦って言葉づかいが、漫画小説の読みすぎだよ。もしかして、思考転写の使い方の答えがあると思った?」 『あんまし煽りは効かないか……さっきは効いたよね?』 「嘘を吐くのは、私を騙しきれる算段があるから。思考転写を欺けると確信しているから。思考転写の限度を知っているから。  限度とは何か、聞こえていない範囲があると知っている事  つまり視界に入れなければ発動しない……それは体を見ていなくてはいけない。  もし体のない人格があるならどうだ?  多重人格……。  思考転写で聞けるのは体の主導権を握っている方なんじゃない?」 「おお! バカじゃなかったか。思考転写使って人生イージーゲームで楽している甘ちゃんじゃなかったか。」  笑顔を見せ嬉しさを声にのせていた。  自分の推理を聞かせながら、思考転写を使い心の声も聞いていた。  人間というのは相槌をうちながらも、その話に対して感想を抱くものだ。合っているとか、間違っているとか、惜しいとか。  亜季にはそれがなかった。ノイズだけだった。 「ただその推理は四十点。全然足りない。」 「うっざ。答えてくれるよね?」  お手上げだ。認めたくないが、負けである。 「素直に認めたら? ……思考転写相手にその顔が見れるとは思わなかった。最っ高だね。商談の快感がここで味わえるとはねぇ。」 「不愉快なんだけ。」 「その顔と四十点に免じて答えてあげる。私は多重人格。でも解離性同一症じゃない。  私の中には人格移しによって移された人格がある。  分かるでしょ?」  人格移しに思考転写は効かない。亜季のノイズは人格移しの人格と会話していたから。  あの日、人格移しに移され、話ことが出来たのは当たり前の事だったから。 「人格移しは二人いる……?」 「がっかりだな。それだけか?」 「……あんたに移した人格移しは……そいつの肉体は……?」 「死んだよ。死んだから、私の中に人格が残り続けている。」  だからか、会話しているように途切れ途切れに心の声が聞こえてくるのは。ノイズは人格移しがしゃべっている時だったんだ。 「目的は何。人格移しを探してたみたいだけど……返却したいの?」 「いや違う。私はこの人格……甚平を背負って生きていくつもりだから。」 『全部話すか……そこは大丈夫じゃない?』 「そもそも、私と人格移しがどこで出会ったと思う?」  偶然街中でばったり、人格移しを受けて、人格移しの肉体は死にました。そしたら残り続けました。通り魔事件だ。  そんな訳ない。となると、 「……花味覚しか。」 「正解。状況が複雑だし説明は省くよ。そこで出会って、人格移しは絶命した。」   「花味覚しってなんだったの?」 「地球外物質、宇宙人がもたらした使用用途不明の機械。オーバーテクノロジーの解明。そのために子供の脳ミソを利用した。」 「宇宙人の機械を解明するために子供の脳ミソを必要とするの?」 「その機械は唯一反応したものがある。地球外物質に選ばれ超能力を得た。  人格移しだよ。  その例に習い実験を始めた。」
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