潜入

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「知り合いから貰った。」 「何その鍵。」  昨日の今日で元気に姿を見せた福寿亜季。手には錆び掛かった太い鍵が握られていた。 「元宮司から貰った、立ち位置禁止エリアの鍵。」 「よく譲って貰えたね。」 「相手は老人会、孫的ポジションに収まった中学生に死角なし。」 「ああ……」  まあ、良いや。気にしないで行こう。 「いざ、魔王場へ。」 「え、今から!?」  黄昏時の涼やかな風が体を撫でる。この時間が好きで夕飯まで散歩に出かける。  偶然会った思ったが、 「ああ、そっか。家族に見つからないように待ち伏せしていたのか。」 「もちろん。ノイズのする女子中学生は普通じゃないから。」 「事情を説明すれば分かってくれるはずだよ。潜入はもうちょっと後でも……」 「……ねえ、行きたくないの?」 『そっか……私とは友達じゃないから……そう一緒に遊びたくないか……雪夏のために』  表情から声音までニヤついてやがる。わかってやりやがって。 「……分かった。」 「到着!」  神社の裏、石畳にはなっているが雑草だらけで、蜘蛛の巣が張っていた。坑道のような入口の前に立って、錆びているせいか鍵開けに苦戦していた。 「嬉しそうだね。」 「テンション低いね。」 「せっかくの癒しの時間だったのに。虫の羽音、鳥の声、木々のさざめき。聴覚って素晴らしい。」 『変な趣味してんな』 「あんたも似たようなもんでしょ!」 「開いたよ。」  階段を降りていく、真っ直ぐで一段一段足音が響く。踊り場がないせいか、不気味で冷気が上がってきて私達の侵入を拒んでいるようだった。  亜季は持ってきた懐中電灯を点けて、 「そういや、あんたのおばあちゃん、先代の思考転写はなんか言ってたりしない? ほら人格移しとの因縁とか色々あるでしょ。」 「あー……」  私がおばあちゃんから聞いたことをそのまま垂れ流した。 「はぐらかされてる。因縁の話を聞かれてなんで地球外物質、人格移し側の話をしたんだ?  神社の取り壊しは思考転写にとっても重要な場所だったのか。いや私が知っている限り人が持つ機能の一つだと思うけど……情報自体が逆だった?……それはないか、人格移しは確かに宇宙人からもたらした脳の拡張機能のはず……もたらした……接触……」 「その答えもここにあるんじゃないの」  最下層に着いた。廊下らしく狭く埃っぽく、天井は低く私がジャンプしても届きそうだ。亜季の言っていた特徴とは異なっている。 「帰る?」 「おばあちゃんって老人会に行ってたりする?」 「詳しくないけど、老人会だったか、自治会だったか、には行ってるはず。」 「……調べようか。」  明かりをたよりに行って壁にぶつかった。 「行き止まり?」  亜季は正面の壁をノックするように叩いて、 「奥に続いてる。扉だね。」  力を入れて開かないようで、一歩下がって突進した。バタンという音と亜季は奥に消えてた。紙束が邪魔していたようで、勢いで舞い上がらせた紙に埋もれた亜季に、 「大丈夫?」 「平気……正解だったみたいだよ。」  部屋の全体をゆっくりと照していくと、本棚には遺跡や隕石や宇宙に関する資料、紙束は私の腰くらいまで積まれていた。何とか足の踏み場はあった。  机には「地球外物質に対する考察」と題された文書があった。  亜季が先読むかと思ったが懐中電灯を持ったまま部屋をうろつき始めたので、私はスマホで照らしながら読み始めた。  我々が発掘した、花の形(資料1)をした謎物質に関してですが、付着した土から六千六百万年前であると思われます。素晴らしいですね。分かりますか、宇宙人の飛来(もしくは無人探査機)は六千六百万年前にあった。我々は宇宙人の末裔ある可能性が出てきた。ダーウィンの進化論は間違っていた、その証明になるかもしれない。花の形をしている、この意味が分かりますか?   植物です。我々の祖先は植物です。宇宙人は植物である可能性があるのです。人間の価値観で考えるなら、植物を育てる知性生命体が存在すると思われます。もちろん我々の尺度で、測定不可能なほどの文明の差をもつ生命体を推し測るのは、愚かだと思いませんか? 我々から見れば神ごとき生命体を解明したいと思いませんか?  お金貸してください。  ん?   ページをめくると資料1の謎物質の写真が乗ってた。コスモスに近い形をしていたが、大きさがわからない上に白黒写真だった。  次のページには。  本当に研究費が足りないのです。せっかく見つけたのに眺めているだけなんて、介錯人のいないハラキリショーと同義なのです。わかって下さい。お願いです。    いや深刻すぎでしょ。そんな理由でハラキリショーって大和魂が泣くぞ。  そっから先は研究費を懇願する可哀想な人がいた。  パラパラとめくって、最後の一枚に赤いペンで「先に金返せ」と書いてあった。 「ねえ、これ見て。名前の部分。」  亜季は静かに隣に立って、一緒に資料を読んでいたようだった。 「催促状?」  自治会、院瀬見一雄。 「誰?」 「ここの鍵を持っていた元宮司。  まだ確定ではないが、自治会も花味覚しに出資している。」
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