探し物

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探し物

「今日はどうしたの?」 『……とりあえず、触れないよ、それ。』  自称幽霊の事をさして、亜季は心の声で言った。頷くと、 「昨日の人格移しは間抜けっていう評価だけど訂正する。恐らく想い人が来る約束をしていたんじゃないか?  想い人が来るって事でテンション上がっていたところに、知らない人の声が聞こえ思わず声を上げた。」 「結局、鍵開いてたら不自然では?」 「鍵を持っていても不自然じゃない人物なら?」 「院瀬見一雄か!」  幽霊が言った。 「んなわけないでしょ。ただ……人格移しの想い人が院瀬見家かもしれない。もちろん、推測だけどね。」  院瀬見……どっかで聞いたことがある。思い出せない。 「院瀬見家の全容が見えないな……」 「ねえ、ほんとうに自治会は調べなくて良いの?」 「やめといた方が身の為だと思うぞ。確実に花味隠しに絡んでいるうえにあんたのお婆ちゃんがいる。人格移しと思考転写、コイツらが手を組んで人体実験をしていた。明らかに超常的な研究だぞ。」  亜季は口にしなかったが、 『お前の本当の母親はどこに行ったんだ?』    院瀬見家に自治会だか、老人会だかが出資している。  院瀬見家があの巨大な望遠鏡を個人で所有しているのだろうか? 資金源はどうなっているのだろう。出資で賄っているのだろうか? 「ねえ、寝る前考えてちょっと調べたんだけど、あの架台おかしいと思う。」 「どういう事?」 「ピア部分に使用した形跡がなかったような気がするんだよね。」 「ピアって柱だよね? 可動するの? ……なるほど、望遠鏡を動かしていない、それはつまり。」 「そう、天体観測用じゃないかもしれない。私も詳しいくないし、もっと調べればそういう望遠鏡があるかもしれないけど。」 「でももしそうなら、何か一点を見ていたってことでしょ……まあ、恐らく……」  ステルス彗星に乗っていた宇宙人、神社に祀られた地球外物質、人格移しの起源。  宇宙人に関する何かを見ていた……交信していたかもしれない。  アレが望遠鏡だという確信はない。望遠鏡に似たアンテナかも知れない。 「宇宙人に人格移しが成功したせいで超能力が覚醒したんだよね?」  日記には二人が限界と書いてあったし、おばあちゃんも刺しでなければならないと言っていた。  それでも、昨日は数十人に人格移しをかけていた。  状況から見て限界突破したのは宇宙人が関わっているはずだ。 「周回軌道している宇宙船を動かない望遠鏡で観察していた……地球と同じ軌道の惑星を見ていた……いや、人格移しが誰も来ないようにしていたなら……数十年単位で地球に接近するとか……やっぱ望遠鏡ですらないか……うーん。」  亜季は一人こもるように考え始めた。  そこはいくら考えても答えがないかぎり、分かるはずがない。  その答えを持っている奴がいる。 「地球外物質、宇宙猫を探してみない?」  少しノイズが強くなった。 「……証拠探しをやめて? ビビったの?」  私の提案はどうやら作戦変更しようとしている風に聞こえたらしい。 「証拠の一つに宇宙猫があるって話。私たちは知らないことが多すぎる。宇宙猫はもしかしたら、そのすべてを教えてくれるかもしれない。」 「どうやって探すのさ、十分でイギリスに行ける存在を。」 「ねえ、何を探しているの?」  幽霊が言った。そういえば忘れていた。  私はまず聞かなければならない。 「お名前は何て?」 「質問に質問で返さないで。」  強情だな、この幽霊。しかたない、 「私たちは花味覚しの証拠を探しているだけだよ。」 「なるほどね。私の名前を教えてあげる。  院瀬見真衣。」 「えっ?」 「花味覚しに関して私の知る限りを教えてあげる代わりに、私の願いを二つ叶えて。」 「嫌だ。」  亜季がピシャリと言った。 「何で? 私は有用で貴重な情報源でしょ。取引の話をしているんだけど? 分からないですかぁ?」  うわぁ……思ってたより煽り性能が高い。 「幽霊を信じろと? 院瀬見家の人間が何を思って花味覚しの情報を横流すんだ? 院瀬見家の罠としか、女狐、私たちを化かしに来たか?」  うっわぁ…… 「花味覚しの被害者だと分からないか? そんな事も思い付かないか? 脳がない幽霊よりも頭が回らないなんて、お前、脳味噌入ってないんじゃないか?」 「何故、お前は院瀬見一雄の名前を上げたんだ? 院瀬見家、頭目は一雄じゃない。それでも、何故だ?」 「……私は院瀬見一雄の孫だからな。」 「嘘だな。孫は死んだと言っていたよ。死んだから幽霊なのはわかる。  ただ、生きていれば私ほどの背丈になっていたと。花味覚しの被害者は五から六歳。  分かるか? お前は何故、中学生程度の背丈まで成長しているんだ?  幽霊なら成長が止まるはずだろう。」 「院瀬見家だから……これ以上は話せない。」  つまり、願いを聞けば話てくれるらしい。  二人の言い合いに圧倒されていたが、ようやく口が動かせた。 「とりあえず、院瀬見真衣のお願いとやらを聞いておきたいんだけど。」 「……うん。分かった。まず、私が触れることのできる花のブローチがあったの。それを探して欲しい。」  言い淀んだ幽霊は、意を決したように、 「私の友人を探して欲しい。」 「同じ幽霊の友達?」 「生きていた頃の。その子が今幸せに暮らせているか知りたい。」 「今、幸せに、ってことは不幸だったの?」 「DVを受けていた。父親がしていた。  ……そいつを私が殺した。」  その言葉に思わず顔をしかめた。
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