平穏

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 家から一歩出て、帰りたいと思う憂鬱な朝。学校行きたくない。  どうやって逃げるか。同じクラスである以上教室に逃げ場ないが、たぶん晴香やかちほ、しろと一緒にいれば話しかけて来ないだろう。  女子の会話に混ざって盛り上げる自信がないから、昨日私が一人になるのを待っていたはずだ。  となれば、注意すべきは廊下。鉢合わせにならないようにしたい。人の心が読めたって、予知ができる訳じゃない。  もしそんな事になってしまったら、顔反らし逃げてしまう。それは好意とか関係なく人を傷つける行動だろう。  そうならないよう、上手く対処しなくては。  腰辺りに生暖かい感触があって、いつも通りで、 「晴香どうかしたの。」 「珍しく、深く、悩んでいた。心配。」  晴香は拙く、不自然な間をあけて言った。   「私はそんな能天気かな。」 「そういう訳じゃない。」 「勉強したの?」  私から離れて、 「フッ、今までとは違うのさ。」  してないんだろうな。  かちほと城山の家に着いた。二人は幼なじみで、隣人である。 「しろ、おはよ。」  城山白鷺、白鷺と書いて、はくろ。このキラキラネームを嫌っており、しろと呼んで欲しいと初対面で言われた。  私も雪夏だからな、仲間だと思われたのだろう。  白鷺はこちらに小さく手を振って、ため息を着いた。 『ああ、二人だけということは……』 「かちほは?」 「知らん。」  家にいる時は朝日を見に散歩しており、その帰りに私たちに会う。   「あいつ迎え行くぞ。」 「オッケー。」  しろは対かちほ用の装備を持ってきた。  かちほの家の玄関には昨日置いたキャリーケースがそのままになっていた。両親も帰ってきていないようだ。  かちほの作業小屋に着いた。正確にはキャンピングカーである。私有地の森の中にキャンピングカーを停めてそこで作品を作り愛でている。  しろが電話をかける。キャンピングカーの中から着信音が聞こえる。しかし、起きる気配はない。窓は全部カーテンで締め切られているため、晴香が耳を付け探るが、首を横に振った。二度寝をしたかは判らない。 「はぁ、しょうがない。」  いつものをやる気なようで、私と晴香は一歩下がる。    しろは拳に厚手のタオルを巻き、握りしめ構えた。  かちほは壁に背をぴったりくっ付け寝る癖がある。狭いキャンピングカーの中、作業部屋であることも踏まえれば、人が寝るスペースは限りある。  そこをたたく。 「ギャー!壊れたぁー!」  かちほの悲鳴。八割寝言である。  よたよたと出て来る。 「きょ、今日は土曜日。」 「何寝言言ってんの。」  そう言って、しろは制服を差し出す。 「いらない。」 「いらないって何?」 「みんなでサボるか!」 「ちょっと、晴香は黙ってて!」 「名案!」  妙案得しと明るくなったかちほの顔面に制服を押し付けた。  ただ笑ってみていた。皆の心は声と一致していた。喋りながら心の中で別のことを考えていない、この空間はそう簡単にできるものじゃない。  互いが楽しんでいるか、安心しているか、信頼してるか、心が読める私にしか判らないが非常に心地良いものだった。   「雪夏、キャッチ!」  制服を投げられ、よたりながら捕まえた。逃げようとしたかちほをしろが組伏せた。        
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