読めない心

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読めない心

 家に帰って、誰も居なかった。おばあちゃんに人格移しについて教えてもらおうと思っていたが、しょうがない、勉強しよう。  集中できなかった。  リビングに行って、なんとなく、テレビをつけた。ニュース番組で、二週間開けて続けてで流星が見れる特別な夏になりそうです、と締めくくった。  次のコーナーが、若者の言葉の乱れについてだった。先週は中学生、高校生の暴言についてやりましたが、今回は造語について。  テレビを消した。イラッときた。暴言の最上級の一つである、死ね、と言われている身である。 「ただいま。」  ようやくおばあちゃんが帰ってきた。足元に猫が居た。おばあちゃんは動物に好かれやすく、健康のため散歩すると良く野良犬だとか、野良猫だとか、近寄ってくる。  小学生の時それ目当てで毎回、ついていった。老人会だとか出かける時は動物に会えると勘違いしてついっていったのを覚えている。 「おばあちゃん人格移しについて教えて。」  「そうか、人格移しと会ったか。」 「正確には、操られた人間に、だけど。」  まず、 「ねえ、思考転写は血筋で受け継いでいくんだよね? なら人格移しも私の苗字も知ってるんだよね」  住所、本名がバレていれば姿を隠すのは意味ない。 「大丈夫じゃ。お前さんの実の母の夫の苗字を名乗らせてもらっている。人格移しは知らんよ。」    おばあちゃんは畳のへやの仏壇の前で座った。私も倣う。祖母の背は寂しさを漂わせていた。 「人格移しの効果範囲を教えて。」 「視界に映る人間が対象になる。そこは思考転写と同じじゃ。  問題は双眼鏡や望遠鏡の類いを透しても人格を移す事が出来る。」  つまり、あの学校内にいなくても晴香を操ることが出来る。二年生の教室は二階、窓から見える景色は道路を挟んで工場がある。工場も二階建て、絶好のポイントだろう。  工場のさらに向こうには、企業のビルがぽつんとある。近くは駅だが工場の影に隠れている。    晴香の位置なら、歩道から気まぐれで人格移しをするのは不可能だろう。  怪しいのは工場と企業ビル。  その中から犯人を当てるのか? 合わせれば二百人だって軽く越えるかもしれない。そんなホームズに匹敵する推理能力はない。  総当たりならいけるか? 出てくる人間全員に思考転写をかける。効けなければ、そいつが犯人だ。    「ちなみに人格移しはかける相手が視界に入る誰かなんじゃ。」 「ランダムってこと?」 「そうじゃ。一対一で密室の中でかける必要がある。学校で人格移しに遭っている人がいたなら、当代の人格移しは頭のネジが飛んでおるな。」 「双眼鏡とかなら、一人に絞れるんじゃないの?」 「そこまではわからぬな。」  双眼鏡で特定の相手にかけられるなら、何故晴香だったのかという疑問は簡単になる。  私が思考転写だと知っていて警告してきたのだろう。  死ねば良いのに。本気で殺されるかもしれない。 「そういえば、全く概要を知らないんだけど、人格移しと何があって敵対したの?」 「わしが現役の時の、当時の人格移しは狂っておってな。」  人格移し保持者は毎度狂っているのか。 「奴は恐竜好きでな。神社の真下に化石があるとか言い出して、取り壊そうとした。」 「良くある話でしょ。」   驚くほど無慈悲な言葉が出た。 「しかし、その神社は人間に人格移しをもたらした地球外物質が祀られてあったのじゃ。記録に残っているだけで、四百年そこにあり続けたそうじゃ。」 「おばあちゃん……盗んだ?」  それなら、思考転写の一族を狙い、取り返そうとするのも頷ける。 「バカを言うんじゃない。あれは社の戸を開けると飛び出しって行ってしまった。まあ、あやつは恐竜狂いゆえ無視したのだがな。  人格移しにとっては大事なものらしいが、どうしてかは知らぬ。  おそらく当代の人格移しがまた探し始めたのだろう。」 「飛び出して行った……? もしかして生物なの?」  四百年の監禁されていればミイラに進化している。いや、地球外のテクノロジーであれば、ミイラでも勝手に動き出すかも知れない。  それただの機械じゃね。 「何故また探し初めたの?」 「研究結果、価値を見いだしたのだろう。」 「つまり、地球外物質と思考転写を利用すれば何かが出来ると。」 「違うな。」 「もっと他に……そうか、地球外物質を探すため、思考転写で町中の人から聞き込みするとか。」 「違う。」 「なんでわかるの。」 「ホレ、そこ。」  おばあちゃんがこちらに向き合って、私のすぐ横を指差した。  猫がいた。おばあちゃんと一緒に家に入ってきた野良猫である。 「地球外物質。」 「は?」 「無礼なやつじゃな。」  猫がしゃべった。  猫が……しゃべった。 「そう、わしが地球外生命体こと、宇宙猫じゃ!」 「なんでだぁーっ!」
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