読めない心

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 殺害予告を受けた次の日、学校に行くことになりました。  なんでだ。これが日本に潜む最大の恐怖、NI.TI.ZYOU。日常生活を維持し不満があっても崩れず平穏に過ごす。日本人の共通認識であり、それは世界の宗教達に匹敵するかもしれない。宗教が流行らない理由だろうな。  ちくしょう。ため息が止まらない。昨日からおかしいだろ。殺害予告に宇宙人猫。  ちなみに宇宙人猫は家に住み着いているのではなくお散歩コースに私の家が設定されているらしい。五年掛けての見回りし一年寝てているそうだ。地球人と時間感覚が違い過ぎる。  宇宙人猫に話しを聞こうと思ったが、 「通信が入った……え? 何? イギリス? 十分待ってろ。」  出ていった。情報量が多くてパンクした脳では捕まえる事ができなかった。 「ゆきな、おはよ。……いつもより沈鬱な顔してるけど。」 「大丈夫だよ。」 『テストそんな不安なのかな?』  テストとは比較にならない不安が私にはまとわりついてるんだよね。  いつも通りかちほは家に居らず迎えに行った。 『起きてる! しかも来客? 珍しい……』  しろは到着して目に入った光景に驚愕していた。  誰だろう。かちほは私達以外と関わろうとしない。かちほから拒絶しているのではなく、常に『次は何を作ろうか』とかの創作関連で頭が支配されており、誰が話しかけても無反応になる。  なので興味を向けることができれば、割りと会話できる。  かちほが作品以上の価値のあると判断した人か。  その人は、 『失礼だよ……まあ今日はそれで良いか』  なんだ? ノイズが入ったのか、部分的に聞き取れなかった。ノイズなんて今まであり得なかった。  この子は一体……? 「かちほ、さっきの誰?」 「大家兼バイヤー。」 「大家って……? バイヤーってどいうこと?」 「ここの土地の利権を持ってたはず。んで、私の作品のなかで、キーホルダーとかの商品にしやすい奴を売る。」 「あり得えないでしょ。だって私達と同じ制服来てたじゃん。中学生が社会と関わるのは信じられない。」 「しろがそれ言う? プロから事務所から高校から声かかってるんでしょ。」  中学生にとって学校が世界のすべてだ。  それ以外に自分の居場所を持っているのは羨ましいと思う。普通の学生である晴香は 『中学生で企業かー、すごいなー』  私も同じ感想を抱いた。 「スポーツならあるけど、企業は不可能じゃない?」 「時代が違うんだよ。」 「同い年だろ。つか誕生日も一緒だろ。」 「え! そうなの!」  三人同じ反応をした。 「かちほ、お前まで……誕生日パーティーまでやったじゃん。」 「あれ私も含まれてたの。」 「ケーキにのってたあの板チョコにあんたの名前もあったよね。」 「そうだっけ? お前を祝いに行ってただけだし、自分の歳数えたってしょうがないでしょ。」 「同い年でしょ……」  見るからに落ち込むしろに、かちほは、 『誕生日くらいで落ち込む理由がわからないな。』  しろを見た。これは自身の口で伝えるべきだと思った。  暗い雰囲気をかき消すために晴香は、 「学校行こうぜ。」  その日は何も起こらなかった。人格移しが接近している様子はなく、連日の異常事態が嘘のようだった。  気になる点は、かちほとしろに距離が空いてしまった事だけだ。    それから一週間、何もありませんでした。  土日が過ぎて、テスト期間になっても人格移しは何もしてこなかった。  テストの合間の休憩時間は教室を出る。思考転写はカンニングをしたい放題なのだが、当然やってない。そのため、机にかじりつくように解いて見直しをしない、出来ない。  ちょっとでも首を動かすだけで、思考転写発動し、カンニングになる。ずっと下向いているため首が痛い。    人の少ない階段移動し腰を降ろす。脳が疲れた。テスト終った瞬間、あの問題が解んなかったとか、案外簡単だったとか、ヤベ寝てたとか。  友達になんて言うか、台本を引くため、はっきりとした言葉で聞こえる。それから逃れるため教室を離れる。  ああ、脅迫罪は切り傷なんかよりずっと攻撃として持続している。痛みより疲労として蓄積する。  あの殺害予告がきっかけで、思考転写と向き合う機会が増えた。  最近では、しろとかちほの仲違いである。前であれば、それとなく促して仲直りさせていた。  それは普通の事だと思う。自分が大切にしている人間関係を壊したくないと願って、修復したいと奔走するのは間違っていないはずだ。  確かに思考転写を使っているが、自分が中心にならなければ、私に好意が向くことなく喧嘩は終息する。  でも本当にそれで良いのだろうか。  思考転写はどこまで許されるのだろうか。  誰も持っていない力は奮うべきなのか。    足音がして、私は教室に戻ろうと立ち上がった。踊り場に足音の主が視界に移った。 『あれ……ああ、そうだった。かちほに友達がいるんだもんなあ』  かちほのとこに居た、大家兼バイヤーだ。  この子は同じクラスで、福寿亜季、だった。  彼女は影が薄く、割りと頻繁に学校を休む。そのせいで顔と名前が一致しなかった。学校に来ない日が多いのもあって、思考転写をかけたことが無かった。視界に入れたことはあるけど、注視したことはない。  やっぱり、ノイズが入る。何故だ? 『誰だ……?』  いや、今、かちほの友達だって思い出したでしょ。記憶力が酷いことに。  待て、様子がおかしい。こめかみに手を当てて、痛みに顔を歪めていた。 『頭が痛いんだけど。ああ、これが人格移しか。』  は? 何を言って……?   『ようやく見つけたぞ。なあ、聞こえているか、人格移し。  何か言ってみたらどうだ。これで乗っ取れないのは初めてだろ?』  会話してる……!  移された人格と会話してる!  人格移しは、人格を移す、それだけだ。  晴香の時のように気絶しなければ、会話出来るのではないか?  彼女は、人格移しが移した人格と頭の中で対話をしている。 『おい、逃げるな!』  人格移しは彼女の中から退去したのだろうか。    私は彼女の横を抜け、教室に戻る。  すれ違う時、彼女を視界に入れた。 『この子が人格移しの容疑者か』
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