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人格移しはあの時、中学校に居た。
学校付近に勤めている人や近くに住んでいる人ではない。
あれからテスト期間が終わっても何もない。
福寿亜季は私を狙っているようだが、商いの仕事が忙しいらしく、余裕がなかった。
夏休み前で、薬物乱用防止教室があって体育館で座らされていた。
「今回の講師は院瀬見さんです。」
「えー、紹介に預かりました。」
そう言って始まったが、ほとんどがまともに聞いていなかった。
私もその一人で、背の順で四つ前にいる亜季に視線を注いでいた。思考転写もそうすれば多少緩和されるが、それでも耳から脳まで疲れてきた。
『雪夏が人格移しだったとして、どうなるん……分からないな……そっか、今、私を見ていれば……』
振り向いた。目をそらす。
いや、恐怖する必要ないじゃん。人格移しは思考転写を殺したいと思っているが、福寿亜季は思考転写に敵対心とかないだろ。
人格移しを探してるし、なんだったら私を人格移しだと勘違いしている。
そうだよ、別に警戒する必要ないじゃん。
この数日か何をしていたんだ。悶々とどう対処するか悩んで、危険がないように避けてバカみたいじゃん。
気づけば薬物乱用教室は終わってクラスごとに帰っていく。
『麻薬と大麻と覚せい剤って違うんだ』『大麻所持は捕まるのに、使用では捕まらないんだ。問題あるのでは』『次美術だし、売人の絵でも書くか』
思ってたより真面目に聞いてるんだな。
休憩時間になって亜季が一人で廊下に居た。なんとなく、目で追っていた。『なんで、かちほにはいるのに、私にはいないんだろ……別に良くない』
「何してるの?」
「へっ?」
背後に花緑が立っていた。
『今の反応かわいい』
うるせな。
「どうしたの?」
「話かけてみただけ。」
恋愛指南書でも読んだか、それ付き合った人間がやる会話だろ。
花緑は私の視線の先を追って、
『ああ、不登校気味の人か。城山の時みたいに、気にかけてるのか、優しいな。』
「そろそろ美術室向かおうか。」
「そうだね。」
『よし、これで一緒に行ける。話しかけて良かったぁああ』
あ、そっか。
亜季に話しかければ良いんだ。丁度美術だし。
美術室での席順は名前順で、四人掛けだ。柊と福寿、同じ机じゃないが、背中合わせの位置に座ることになる。
隣はかちほ、後ろに亜季。会話に詰まったらかちほをネタにしよう。プロとバイヤーがいるのだ。なにも不自然なことなく、話題を反らせる。
ちなみに美術の時間はほとんどの生徒がペラペラ喋る。
「かちほって、いつから福寿さんと仲良くなったの?」
「そんな仲良くしてたか?」
本人後ろにいるんだぞ。
「かちほにしては、珍しく。」
「あー。」『それもそうか』
気づいた?
『あれ? 私ゆきなたち以外と全然話してないじゃん』
今、気づいたの!
『ま、いっか』
良くねえ!
違う。今は亜季に集中しなくては。
「三年前の夏頃だよ。私が声かけたの。」
よし、亜季が釣れた。今の流れでよく割って入ってきな。
「『秘密基地欲しくない?』って。」
「アトリエって言うべきでは?」
「かちほを付け回した結果、神社の裏手にある立ち入り禁止の看板あるでしょ。あれをじいっと見ていたから、自分だけの空間が欲しいんだろと思ったんだよ。
秘密基地って表現の方が特別感がでる。その上キャンピングカーだぜ、キャンピングカー。他にいないぜ。キャンピングカー。」
謎のキャンピングカー推し。ていうか、
「三年前って小学生だよね!? なんでキャンピングカー持ってんの?」
「それが私達の力だよ。」
達? 複数人で商いやってんのか。
「へえー凄いね。」
「凄いでしょ。」
なんだこの不毛な会話は。
かちほは作業に戻っていた。
『さて、もう少し世間話をするか……そうだな……』
またノイズ。人の心に不明瞭な音が入る、その事が不気味だった。
「二人はいつからに付き合いなの?」
「かちほが転校してきてすぐだよ。」
教室で一人、虚ろを見て作品の事を考えていたのが記憶に残っている。ずっとそうしてきたのか、友達欲しいな、とは考えていなかった。
数週間後、その日たまたま、かちほに思考転写をかけた。
『早く帰りたい。集団行動に価値あるのか。私を潰そうとする、集団に。家族という集団の価値はなんだ。姉がそれで潰れたじゃないか。帰ろう』
それではダメな気がした。当時の私には言葉に出来ない直感が、彼女を止めると選択した。
間違っていなかった。しばらくして、かちほの家にお邪魔した時、作品のほとんどが壊れていた。
「壊したかった。」
「上手くいかなかったの?」
「壊したかった。」
繰り返された言葉に引きずられ、かちほを見た。何も考えていなかった。無意識に壊した。一つだけ丁寧に飾っており、最近作ったと言っていた。
でも、まだ不安定だ。キャンピングカーに遊びに行くと、粘土の破片や木片、プラスチックの破片などがたまに散らかっている。
ある日唐突に集団を抜け『壊したくなる』かは分からない。
「仲良いんだね。」
「そう?」
『そんな懐かしむように、かちほを見てたらそりゃあ……保護者かって』
かちほがドライヤーを使い始めた。
『さてそろそろ本題に……』
よし、かかってこい!
「思考転写って君だよね?」
「えっ?」
人格移しじゃ……
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