帰省中

「だから言ったじゃないか」
町田の顔が悲痛に歪む。老婆の残骸が髪にまとわりついて脳漿のようにてらてらと粘っこく光る。牛乳を吸い取ったまま、教室の片隅に忘れ去られた雑巾のような異様な臭気が立ち込め、穏やかだった部屋は処刑場へと変貌した。
全身の骨が砕けたように、町田はその場へ崩れ落ちた。力の抜けた足は陸上に打ち上げられた魚のように小刻みに痙攣し、虚ろな眼球が救いを求めるように動き回る。
ビタン、と腰が大きく跳ねた。かつて水族館で見たイルカのショーを思い出した。酷くその場に不釣り合いな幻想は直ぐに立ち消える。
町田の背中は、真っ赤に裂けていた。恥ずかしげもなく中身を晒して。翔太の足は打ち付けられたように動かない。
裂け目から、やや緑がかった半透明の羽根が、嫌に慎重に勿体ぶって出現する。破かれた卵の殻はもう動かない。現象に身を任せている。
羽根は空気に触れると直ぐに、極彩色の金属に生まれ変わった。微かに注ぎ込む日差しを乱反射させて己が美しさを誇示しているように見えた。
折れそうな程に華奢な脚が、体全体を支え、町田の中で丸々と太った胴体を引き抜こうとつっぱる。
びちゃりびちゃりと血が噴き出す音を聞きながら、翔太の意識は彼方へと遠ざかっていく。
――次は、次の哀れな宿主は。
自分の番。

ぶぅぅぅんぶぅぅぅんとあの音がした。新たに産まれた仲間を迎えに来たのだろうか。