8人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんたさ、今日の杉沼祭来ない?」
翔太の元に故郷に住む母、佳美からの電話があったのは約6時間前のことだ。思わず「は?」と聞き返してしまった。
「ついに買ったのよ、タブレットを! だから、オンラインでお祭りに参加しないかって聞いてるの。今年の舞はリンちゃんの番でしょう。だから、あなたにも見て欲しいんだってリンちゃんが提案したの」
話題になった途端、タブレットをわざわざ買うだなんて新しい物好きの佳美らしい。村ではスマートフォンを持っている人すら珍しい。祥太が村にいた数年前は、通信速度があまりにも遅くて使えたものではないと聞いていたので買おうとも思わなかった。
「圏外じゃないの?」
「バカ、そこまで田舎じゃないわ。半年くらい前かな? やっとまともに使える環境が整ったの。使えないんだったらこんなに高い物なんか買わないでしょ」
あの辺鄙な村で、文明の電子機器が使えるということが、しばらく離れていたこともあって、驚きだった。
杉沼祭というのはいわゆる盆祭りだ。地域住民の結束が固いのもあって、地図にかろうじて名を残すようなちっぽけな村にしては、割と大きな規模で執り行われる。毎年14歳になった子供が一人選ばれ、祭りでの舞を奉納する。それが今年は7つ違いの妹、凛子の番らしい。それもあって祭りの誘いを無下に断るのははばかられた。
「分かった。何時にログインすればいい?」
最初のコメントを投稿しよう!