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「祥太、聞こえてるかー?」
呑気な声は父、俊彦のものだろう。
「内カメラに設定変えないと、俺そっちの顔見えないよ」
悪い悪い、と言いながら俊彦はなれない手つきで画面を操作する。
さっきから佳美が発言しない。招待した本人なのだから、一番に口を開いてもおかしくはないだろうに。
「みんなは?」
「ああ、佳美と凛子なら舞の準備をしているよ。もう少しで始まるだから、少し屋台でも見て回ろう」
「回るったってこっちはなにもできないじゃん」
小さな画面の向こうでは、いよいよ祭は最大の盛り上がりをみせているらしく、屋台の呼びかけがヒートアップしてきている。
昔から見なれた、近所に住んでいる叔父さんや叔母さんが店主へと姿を変えているのはとても変な感じがした。
「じゃあ杉沼さんまでお参りに行くってのはどうだ? リモート参拝なんて流行の最先端だろ」
杉沼さんとは村のちっぽけな神社のことで、村のみんなから親しまれている。村の中心となる広場からは少し離れた所にあって、それなりに長く急な階段を一段一段登らなくては行けないので、通うには少々不便な場所にあるのだが、不思議と掃除が行き届いていてボロさなどは微塵も感じられない。
翔太も小さな頃は、数少ない同級生達と一緒に放課後を神社の周辺で過ごしたものだった。
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