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――得体の知れないヤツがさ、出るんだよ、この村。
肯定するかのようなタイミングで家鳴りがした。ただ、その程度の外的要因で頭から話を信じるほど翔太は純粋でない。
父親が、いい歳をしてそのような話をする人間だとは思っていなかった。多少のオカルト趣味があるのは知っていたが、まさかここまでだったとは。
「普段は杉沼さんが、そいつらを人間の目には見えないようにして、封印しているんだ。人間がソレを目撃したが最後、あの世まで連れて行かれてしまう、らしいぞ?」
つまり、杉沼さんがそいつらから村人を守ってくれているわけだ、と俊彦は続ける。
人工の灯に映された木々がひどく黒ずんでいる。風がさあっと吹き抜けて木々の間をかき乱す。秘密の情報を隠してやろうと意地悪するように。
「杉沼さんの封印もそう長くはもたない。生と死の入り乱れる盆にはどうしても弱くなる。だから、せめて一年に一度。丁度この時期に掛けなおさなくちゃならない。そこで、今日一日中杉沼さんは社に籠る訳。それを労うのがあの舞だ」
「どうしてそんな話信じるんだよ? だいたい、見たものは居ないはずの化け物の話が伝わってるだなんておかしいじゃないか」
基本的に、怪談全般で言えることだが、目撃者のその後が語られない胡散臭さがどうにも際立つ。
「凛子は喜んで聞いていたぞ」
それに、と俊彦は続ける。
「何でもかんでも否定してかかっちゃ面白くないだろう?」
翔太の言葉に非難の含みを感じ取ったのか、俊彦は笑った。
「随分とありきたりな話だがな、調べてみたら意外と面白くってさ。昔バァさん達が生きていた頃に、近所を聞いて回ったんだ。随分と奇異の目で見られたよ。なにせ急に婿入りしてきたよそもんが嗅ぎ回ってるんだから」
「恥ずかしかったのよ。本当に」
聞きなれた声に俊彦が振り向くと、狭い画面の向こうに佳美の姿があった。凛子の準備が終わって、探しに来たのだろう。半年前とは痩せも太りもせず変わりのない元気そうな姿で、翔太は安心した。
「俺は割と気に入ってるけどな。珍しくっていいじゃないか」
「嫌ね、こんな迷信信じて怖がって。小さい頃からずっと聞かされて、私はもううんざりよ!」
俺も結構長く杉沼に住んでるんだけどなぁ……、と小さな俊彦の呟きがマイクに拾われた。道理でその話を全く知らなかったわけだと、翔太は一人納得した。田舎臭い風習を嫌った佳美が話そうとしなかったのか。
「早くお参りするならして戻りましょう」
わざわざ翔太の方を向いて佳美は答えた。
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