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ピピピピピピッ
無機質な音が部屋に鳴り響く。
睡眠という幸せな時間はとっくに過ぎてしまった。
遮光カーテンの隙間から漏れ出る朝日を睨みながらも、仕方なく身体を起こす。
今日も憂鬱な一日が幕を上げる。
制服の袖に腕を通し、髪にヘアアイロンをかける。
前髪も丁寧に整えて、余分な髪はピンで留める。
そして、最近流行りのヘアアレンジをして。
全て整えたら、髪を結う。
本当は、髪型なんてどうでもいいけれど。
手早く朝食を用意する。
「いただきます。」
昨日買っておいたメロンパンを齧りながら、クラスメイトのInstagramを確認する。
どうやら、今流行っているアイドルのグッズを買ったらしい。
『可愛い!私も欲しいんだよね~!』
なんて返事をした。
本当は、流行りなんかどうでもいい。
そのアイドルだって全く好きじゃない。
欲しくもなんともない。可愛いなんて思っていない。
...何故かなんて、
それが『私』だから。
いつも笑顔で、流行りに敏感で、可愛いものが大好きで、優しくて。
これが皆の知っている『私』。
皆が望むのは『私』であって、私じゃない。
だから私は今日も、皆が望む『私』にならなければいけない。
鏡に写っているのは、
死んだ目の酷い顔をした私だった。
両手で頬を無理やり持ち上げて。
笑顔を縫い付ける。
声もワントーン上げて、口調も明るく。
仕草も、性格も、見た目も、全て
何一つ私が残らないように潰しきる。
鏡の前で明るく振る舞えば、
───『私』の完成だ。
「...いってきまーす!」
さあ。
扉を開けて、
今日も『私』を演じようではないか。
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