第1章 【感情】

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ピピピピピピッ 無機質な音が部屋に鳴り響く。 睡眠という幸せな時間はとっくに過ぎてしまった。 遮光カーテンの隙間から漏れ出る朝日を睨みながらも、仕方なく身体を起こす。    今日も憂鬱な一日が幕を上げる。 制服の袖に腕を通し、髪にヘアアイロンをかける。 前髪も丁寧に整えて、余分な髪はピンで留める。 そして、最近流行りのヘアアレンジをして。 全て整えたら、髪を結う。 本当は、髪型なんてどうでもいいけれど。 手早く朝食を用意する。 「いただきます。」 昨日買っておいたメロンパンを齧りながら、クラスメイトのInstagramを確認する。 どうやら、今流行っているアイドルのグッズを買ったらしい。 『可愛い!私も欲しいんだよね~!』 なんて返事をした。 本当は、流行りなんかどうでもいい。 そのアイドルだって全く好きじゃない。 欲しくもなんともない。可愛いなんて思っていない。 ...何故かなんて、 それが『私』だから。 いつも笑顔で、流行りに敏感で、可愛いものが大好きで、優しくて。 これが皆の知っている『私』。 皆が望むのは『私』であって、私じゃない。 だから私は今日も、皆が望む『私』にならなければいけない。 鏡に写っているのは、 死んだ目の酷い顔をした私だった。 両手で頬を無理やり持ち上げて。 笑顔を縫い付ける。 声もワントーン上げて、口調も明るく。 仕草も、性格も、見た目も、全て 何一つ私が残らないように潰しきる。 鏡の前で明るく振る舞えば、 ───『私』の完成だ。 「...いってきまーす!」 さあ。 扉を開けて、 今日も『私』を演じようではないか。
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